片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
狙い通り厨房に潜り込んだ俺たちは、入口から忍び込んで中に身を潜める。
広すぎる厨房では、ホテルのシェフたちが忙しなく作業をしており、ここでも俺たちの存在に気付かれることはなかった。冷静に考えて、厨房に子供が入り込むなんて思いもしなかっただろう。
「わあ……すごい……」
隣を見ると、緋真が今日一番の輝いた表情で厨房の奥を見つめている。
カンカンと調理器具がぶつかる金属音、白い煙と共に燃え上がる炎、そこらじゅうに立ち込める食欲をそそる匂い……彼女にとってはすべてが新鮮なのだ。
「もっと近くで見る?」
「でも、怒られないかな……」
「大丈夫。こっそり行こう」
機材の合間を縫うように進み、近くの作業台のそばまでやってくる。
ただただ彼女が喜ぶ顔が見たいとだけ願って、七歳の自分には当然ながらリスクなんて考えることができなかった。それでも、バレないうちにここから退散しなきゃいけない。後で両親に知られたら、怒られることはわかっていたから。
頃合いを見計らって「そろそろ戻ろう」と声をかければ、緋真は名残惜しそうで。もう少しだけ、と思っているうちに低い声が響き渡った。
「おい、君たち! 何してる!」
「っ……」
すぐに自分たちのことだとわかり、その場を駆け出す。
そして、逃げることに夢中で気付いていなかった。走り出した先に、大きな鍋を移動させているシェフがいたことに。向こうも鍋のせいで、足元に子供がいるなんて夢にも思わなかったのだろう。
「うわっ!!」
低い男性の声が響いた瞬間、バシャッと何かが零れる音と共に熱い水しぶきが飛んでくる。追って何かが落下したような鈍い音に体を震わせて、咄嗟に目を瞑った。
すべては一瞬のことで、一体何が起きたのかわからない。
広すぎる厨房では、ホテルのシェフたちが忙しなく作業をしており、ここでも俺たちの存在に気付かれることはなかった。冷静に考えて、厨房に子供が入り込むなんて思いもしなかっただろう。
「わあ……すごい……」
隣を見ると、緋真が今日一番の輝いた表情で厨房の奥を見つめている。
カンカンと調理器具がぶつかる金属音、白い煙と共に燃え上がる炎、そこらじゅうに立ち込める食欲をそそる匂い……彼女にとってはすべてが新鮮なのだ。
「もっと近くで見る?」
「でも、怒られないかな……」
「大丈夫。こっそり行こう」
機材の合間を縫うように進み、近くの作業台のそばまでやってくる。
ただただ彼女が喜ぶ顔が見たいとだけ願って、七歳の自分には当然ながらリスクなんて考えることができなかった。それでも、バレないうちにここから退散しなきゃいけない。後で両親に知られたら、怒られることはわかっていたから。
頃合いを見計らって「そろそろ戻ろう」と声をかければ、緋真は名残惜しそうで。もう少しだけ、と思っているうちに低い声が響き渡った。
「おい、君たち! 何してる!」
「っ……」
すぐに自分たちのことだとわかり、その場を駆け出す。
そして、逃げることに夢中で気付いていなかった。走り出した先に、大きな鍋を移動させているシェフがいたことに。向こうも鍋のせいで、足元に子供がいるなんて夢にも思わなかったのだろう。
「うわっ!!」
低い男性の声が響いた瞬間、バシャッと何かが零れる音と共に熱い水しぶきが飛んでくる。追って何かが落下したような鈍い音に体を震わせて、咄嗟に目を瞑った。
すべては一瞬のことで、一体何が起きたのかわからない。