片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
静まり返った時間はほんの一秒にも満たない。すぐに大人たちが慌てふためく声と、女の子の叫び声にも近い泣き声が厨房に響き渡った。
声の方へ視線を向けると、先ほどまで手をつないでいたはずの緋真の手が、なぜか地面にあった。そしてしばし考えて状況を理解する。彼女に鍋の中の熱湯がかかったのだと。
その後のことは、呆然としていてあまり覚えていない。大人たちがやってきて、緋真を取り囲み、彼女はしばらくしてやってきた救急隊員たちに運ばれて行った。俺は目の前の状況を理解するのに精一杯で、何もできなかったのだ。
後から普段滅多に怒らない父に怒鳴られ、母は生まれて初めて涙を見せた。
彼女は無事なのか。自分のせいで彼女が死んでしまったら、どうしよう。その時は申し訳なさと恐怖、いろんな感情が混じって、上手く息ができなかった。
幸い命に別状はなかったが、火傷の範囲と深さがひどく、皮膚移植を要する大がかりな手術となった。おそらく痕も消えないかもしれない、と。
当時は詳しいことはわからなかったが、自分が犯した罪がどれだけ重いかだけはわかった。
今後何十年生きていく少女の体に、一生ものの傷を残してしまったのだ。償っても償いきれない。できることなら、自分が代わりたいと思った。
もしあの時、厨房に連れて行かなかったら、すぐに会場に戻っていたら、熱湯がかかったのが自分だったら……過ぎたタラればばかりを考えて、そんな自分に嫌気がさした。
「本当に申し訳なかった……」
「社長、もう大丈夫ですから。顔を上げてください……」
緋真の手術のあと、しばらくして両親と共に椹沢家に出向いた。病院にも行ったけれど、両親の気持ちはそれでは収まらなかった。もちろん俺自身も。
声の方へ視線を向けると、先ほどまで手をつないでいたはずの緋真の手が、なぜか地面にあった。そしてしばし考えて状況を理解する。彼女に鍋の中の熱湯がかかったのだと。
その後のことは、呆然としていてあまり覚えていない。大人たちがやってきて、緋真を取り囲み、彼女はしばらくしてやってきた救急隊員たちに運ばれて行った。俺は目の前の状況を理解するのに精一杯で、何もできなかったのだ。
後から普段滅多に怒らない父に怒鳴られ、母は生まれて初めて涙を見せた。
彼女は無事なのか。自分のせいで彼女が死んでしまったら、どうしよう。その時は申し訳なさと恐怖、いろんな感情が混じって、上手く息ができなかった。
幸い命に別状はなかったが、火傷の範囲と深さがひどく、皮膚移植を要する大がかりな手術となった。おそらく痕も消えないかもしれない、と。
当時は詳しいことはわからなかったが、自分が犯した罪がどれだけ重いかだけはわかった。
今後何十年生きていく少女の体に、一生ものの傷を残してしまったのだ。償っても償いきれない。できることなら、自分が代わりたいと思った。
もしあの時、厨房に連れて行かなかったら、すぐに会場に戻っていたら、熱湯がかかったのが自分だったら……過ぎたタラればばかりを考えて、そんな自分に嫌気がさした。
「本当に申し訳なかった……」
「社長、もう大丈夫ですから。顔を上げてください……」
緋真の手術のあと、しばらくして両親と共に椹沢家に出向いた。病院にも行ったけれど、両親の気持ちはそれでは収まらなかった。もちろん俺自身も。