片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
 緋真がこれから何十年もコンプレックスを抱えて生きていくということは、俺も罪の意識を背負って生きていくことを意味する。緋真の両親としては、俺にそんな重い責任を感じさせたくなかったのだ。
 
「お互いに、二度と同じ事故を起こさないように気を付けよう。もう誰も傷つかないように、ね?」

 それでも納得がいかない俺を、緋真の父が何度も説得する。そこまで言われてしまえば何も言えず、渋々と頷いた。

「……わかりました。それなら、せめて緋真ちゃんに会わせてくれませんか? ちゃんと謝りたいんです」

 事故以来、緋真とは顔を合わせていない。緋真がすぐに病院へ運ばれ、入院となったからだ。けれど、俺たちが会えない理由は、それだけじゃなかった。

「そうさせてあげたいんだけど……緋真がね、事故前後のことをあまりよく覚えてないみたいで」
「え……? 記憶喪失ってことですか?」

 意味が理解できず、つい最近読んだ小説で知ったばかりの言葉を口に出す。

「そこまで大げさなものじゃないよ。今はまだ混乱してるみたいなんだ。だから、また落ち着いたら会ってやってくれないかな」
「……はい」

 きっと事故のショックで混乱しているのだろう。落ち着いたら、直接謝ろう。


 そう思っていたが、待てど暮らせど緋真に会える機会はやってこなかった。緋真の記憶が戻らなかったのか、それとも緋真の両親が二人を会わせたくなかったのか――今でも本当の理由はわからないが、おそらく前者だった。

 実際にお見合いで緋真に再会したとき、彼女は俺のことなどまったく覚えていなかったのだから。

 それに、もし緋真の両親が俺を彼女に会わせたくなければ、今回の縁談だって早々に断られていたはずだ。

 いつかは打ち明けなきゃいけないのだろうか……。
 
 緋真にすべてを打ち明けたい気持ちと、話して混乱させたくない気持ちが交差する。
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