片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「いえ……当たり前のことですが私たちはまだお互いのことをよく知りませんし、伊織さんと私では少々釣り合わないような気がしまして……」
「見合いですからね、お互いのことはこれから知っていけば良いかと。ちなみに、釣り合わないというのは」

 私の発言がまるで理解できない様子。誰が見てもわかることだ。正真正銘エリートの彼と、不自由のない生活を送ってきてはいるが一般家庭で育ったごく普通の私。逆に釣り合うと言う人のほうが少ないだろうし、引け目すら感じてしまう。

「……立場と言いますか、私は特別秀でたものもありませんし」

 この場で明け透けな物言いをするのも気が引けて、言葉を濁す。伊織さんは、粗方の意味を汲み取ってくれたようだった。

「確かに肩書きだけで言えばそう感じるかもしれませんが、至って普通ですよ。現実的な話をすれば医者と言っても勤務医ですし、父の会社を継ぐほど贅沢はさせてあげられない」
「いえ、そんな――」

 別に養ってもらおうなんて、思っているわけじゃない。そうは言っても、私よりもずっと稼いでいるんだろうけれど。

「それに緋真さんだって料理のプロでしょう。分野は違くともお互い誇るべきところはありますよ」
「そう、ですが……」
「もちろん結婚において互いの肩書きを重視される方もいますから、それも含めて判断してもらえると。逆に判断材料として今のうちに聞いておきたいことがあれば、何でも答えますので」

 淡々と事務的な発言からは、真意を読み取ることができない。

 しかし、ただひとつ。この縁談に対して前向きであることだけは、ひしひしと伝わってきた。

「では、肩書きなどは一旦置いておいたとしても……伊織さんは私でよろしいんですか?」
「どういう意味で?」
「その、異性として……容姿とかも含めて……」

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