秋恋 〜愛し君へ〜
俺は仰向けに寝転がり目を閉じた。吹きつける澄んだ風が少しばかり冷たくて気持ちいい。昨夜の不眠のせいもあって寝てしまった。

「ここは相変わらず気持ちえぇなぁ」

勇次の声で目が覚めた。勇次は俺の隣であぐらをかいていた。どれぐらい眠っていたのだろう。随分長い時間だったような気がする。

「久しぶりだな」

「せやなぁ」

勇次が異動になってから、俺たちは一度も話をしていなかったのだ。

「いつ来たんだよ?」

「さっきや、いびきかいとったでぇ」

「マジで⁉︎」

「うっそやぁ」

「なんだよ!」

俺も起き上がりあぐらをかいた。

「どうだよフレンチ?」

「楽勝や」

「おーっ、頼もしい」

「せやろ」

俺は鼻で笑った。

「なに鼻で笑ろうとんねん!失礼な奴ちゃなぁ」

勇次は不貞腐れた。

「俺、少しは成長してんのかな?」

「いきなりなんやねん!」

俺の深刻さを察したのか、勇次は一呼吸置き珍しく真顔で答えた。

「しとるんとちゃうかぁ」

「なんで?」

「なんで?て、ちゃんと前に進んどるからとちゃうんかいな」

「前に?」

「せや、俺もお前も仕事なんか長続きせぇへん、そう思っとった。せやけど、今ちゃんとおるやんか。自分の足で踏ん張ってここまで来たんとちゃうんか」

「…」

「俺はもっともっと前に進むでぇ。ここまできたら進むしかないやろ。次は黒服やさかいな」

「勇次、お前かっこいいな」

「なんや、今頃気づいたんかいなぁ。遅いでぇ秋ちゃん」

俺の気持ちはとても楽になっていた。いつもここで癒される。この景色と、空気と、勇次は俺にとっての精神安定剤だ。
< 22 / 70 >

この作品をシェア

pagetop