秋恋 〜愛し君へ〜
今日は泊まり番だ。彼女も笠原さんも確か早番だったから、もう出勤しているはず。俺は少しだけ心に痛みを抱えたまま事務所のドアを開けた。
「おはよう」
俺の目に飛び込んできたのは彼女の笑顔だった。
「おはようございます」
彼女の顔を見て言えた。体調はどうか聞こうかどうか迷っていると、笠原さんがやってきた。
「おはようございます」
普段通りに言えた。
「おう、おはよう」
挨拶はしたものの、この場にどんな顔をしていればいい?最悪だ。でも、昨日までの俺とは違った。何とか冷静に2人を見ることができる。笠原さんは男の俺から見てもいい男だ。そんな彼を選ぶのは当然だと思う。でも、どうして既婚者なのか?それでも彼を必要とするのは、それだけ彼女を受け入れる大きな器を持っているからなのだろう。俺はほとんどあきらめモードに突入していた。吹っ切れたとまでは当然いかないが、選んだ相手が笠原さんでよかった。そう思うようになっていた。いや、そう思い込むようにしていたのだ。
この日も土曜日とあって、ラッキーなことにすこぶる忙しかった。なかなか休憩に入れず、ようやく夕食にありつけたときには、もう2人とも上がっている時間だった。従食から戻った俺は目を疑った。てっきり帰ったとばかり思っていた彼女が、事務所のデスクで何やら作業をしていたのだ。少しばかり面食らったが、何事もなかったように話しかけた。
「残業ですか?」
「うん、キャプテン会議に使う資料を明日までに提出するように言われてるの。体調崩しちゃったりしたから、残業でもしないと間に合わなくて」
「そうですか」
事務所には俺たち2人以外誰もいない。仕事の邪魔をするわけにはいかないし、妙な沈黙が漂う。
「長谷川くん」
彼女の一言が沈黙を破った。
「はい?」
「一昨日は本当にありがとう」
「いいえ、別に」
話がタイムスリップしてしまう。誰か止めてくれ!そんな気持ちだった。
「あのね、お礼させて欲しいんだけどいいかな?」
「お礼⁉︎」
「そう、お礼」
「え⁉︎」
「ダメ?」
「ダ、ダメじゃないです!」
「そう、よかった。なにがいい?」
「えっ、何が⁉︎」
「食事でもどう?」
「し、食事⁉︎」
「おいしいものでも食べに行かない?外食が嫌だったら私が何か作るわ。味は保証しないけどね」
彼女の口から予期せぬ言葉が次から次へと飛び出して、俺はついていくのに精一杯だった。
「食事がダメだったら、んーっ、何がいいかなぁ」
親指を顎に当てて考えている仕草が可愛いすぎる。
「長谷川くん?」
「あ、俺、食事がいいです」慌てて答えた。
「何食べたい?」
「ハンバーグ!」
咄嗟に口から飛び出してしまった。後悔した。ハンバーグってなんとオコチャマな…
「ハンバーグね。だったら私が作るわ」
「つ、作る⁉︎」
「そうよ。私、ハンバーグだったら自信あるもの。いつにする?」
「俺はいつでも」
彼女は事務所の壁に貼ってあるシフト表の前まで行くと腕を組んだ。
「んーっ、なかなか同じ日にオフってないよね。長谷川くんはほとんど泊まりでしょう。私は…あっ、明後日、月曜日はどうかな?長谷川くんは早番なんだけど、仕事上がってから予定なければ私もその日は泊まり明けだしどうかな?」
「は、はい、いいです」
「じゃあ決まりね。仕事上がったら家に来てくれる?作って待ってるから」
「はぁ、俺、行ってもいいんですか?」
彼女の部屋に入っていく笠原さんの姿がフィードバックしていた。
「もちろん、どうして?」
どうして?って、そんなことストレートに聞かれても言えるわけがない!
「いや、別に…」
「それじゃあ絶対来てね。待ってるから」
そう言うと彼女はまたデスクに戻り作業を続けた。
俺は突然の出来事に、初めこそ複雑な気持ちだったが、彼女から招待された。と言う事実がじわじわと心の中に広がっていくのを感じていた。
それからの俺ははやる気持ちとそれを抑える気持ちと心中合戦を必死にドローにすることで何とか自分を保っているといった状態だった。
「おはよう」
俺の目に飛び込んできたのは彼女の笑顔だった。
「おはようございます」
彼女の顔を見て言えた。体調はどうか聞こうかどうか迷っていると、笠原さんがやってきた。
「おはようございます」
普段通りに言えた。
「おう、おはよう」
挨拶はしたものの、この場にどんな顔をしていればいい?最悪だ。でも、昨日までの俺とは違った。何とか冷静に2人を見ることができる。笠原さんは男の俺から見てもいい男だ。そんな彼を選ぶのは当然だと思う。でも、どうして既婚者なのか?それでも彼を必要とするのは、それだけ彼女を受け入れる大きな器を持っているからなのだろう。俺はほとんどあきらめモードに突入していた。吹っ切れたとまでは当然いかないが、選んだ相手が笠原さんでよかった。そう思うようになっていた。いや、そう思い込むようにしていたのだ。
この日も土曜日とあって、ラッキーなことにすこぶる忙しかった。なかなか休憩に入れず、ようやく夕食にありつけたときには、もう2人とも上がっている時間だった。従食から戻った俺は目を疑った。てっきり帰ったとばかり思っていた彼女が、事務所のデスクで何やら作業をしていたのだ。少しばかり面食らったが、何事もなかったように話しかけた。
「残業ですか?」
「うん、キャプテン会議に使う資料を明日までに提出するように言われてるの。体調崩しちゃったりしたから、残業でもしないと間に合わなくて」
「そうですか」
事務所には俺たち2人以外誰もいない。仕事の邪魔をするわけにはいかないし、妙な沈黙が漂う。
「長谷川くん」
彼女の一言が沈黙を破った。
「はい?」
「一昨日は本当にありがとう」
「いいえ、別に」
話がタイムスリップしてしまう。誰か止めてくれ!そんな気持ちだった。
「あのね、お礼させて欲しいんだけどいいかな?」
「お礼⁉︎」
「そう、お礼」
「え⁉︎」
「ダメ?」
「ダ、ダメじゃないです!」
「そう、よかった。なにがいい?」
「えっ、何が⁉︎」
「食事でもどう?」
「し、食事⁉︎」
「おいしいものでも食べに行かない?外食が嫌だったら私が何か作るわ。味は保証しないけどね」
彼女の口から予期せぬ言葉が次から次へと飛び出して、俺はついていくのに精一杯だった。
「食事がダメだったら、んーっ、何がいいかなぁ」
親指を顎に当てて考えている仕草が可愛いすぎる。
「長谷川くん?」
「あ、俺、食事がいいです」慌てて答えた。
「何食べたい?」
「ハンバーグ!」
咄嗟に口から飛び出してしまった。後悔した。ハンバーグってなんとオコチャマな…
「ハンバーグね。だったら私が作るわ」
「つ、作る⁉︎」
「そうよ。私、ハンバーグだったら自信あるもの。いつにする?」
「俺はいつでも」
彼女は事務所の壁に貼ってあるシフト表の前まで行くと腕を組んだ。
「んーっ、なかなか同じ日にオフってないよね。長谷川くんはほとんど泊まりでしょう。私は…あっ、明後日、月曜日はどうかな?長谷川くんは早番なんだけど、仕事上がってから予定なければ私もその日は泊まり明けだしどうかな?」
「は、はい、いいです」
「じゃあ決まりね。仕事上がったら家に来てくれる?作って待ってるから」
「はぁ、俺、行ってもいいんですか?」
彼女の部屋に入っていく笠原さんの姿がフィードバックしていた。
「もちろん、どうして?」
どうして?って、そんなことストレートに聞かれても言えるわけがない!
「いや、別に…」
「それじゃあ絶対来てね。待ってるから」
そう言うと彼女はまたデスクに戻り作業を続けた。
俺は突然の出来事に、初めこそ複雑な気持ちだったが、彼女から招待された。と言う事実がじわじわと心の中に広がっていくのを感じていた。
それからの俺ははやる気持ちとそれを抑える気持ちと心中合戦を必死にドローにすることで何とか自分を保っているといった状態だった。