夢のまた夢では 終わらない夢
寝転がったまま目を閉じると、彼との楽しい時間が次々と脳裏を駆け巡っていく。

だめだめ。

どうせ神楽さんも男。

男なんて皆どうしょうもないんだから。

母と私を捨てた父のように……。

********************

まだ私が幼い頃、父は私が産まれてすぐに亡くなったと母から聞かされていた。

ずっとそう信じて生きてきたけれど、母が病気で亡くなる直前私に言った。

「樹のお父さんはどこかでまだ生きてるの」

想像だにしなかった突然の事実に私にはその言葉の意味をすぐには理解できなかった。

……生きている?

生きてるのにどうして今までそばにいてくれなかったの?

母が身を粉にして私を一人で育ててくれた間に、のほほんとどこかで生きてたってこと?

父が生きてるっていう事実は、私たちへの裏切りとしか思えなかった。

グッと手を握りしめうつ向く私の腕に母はそっと手をかけ、優しく微笑み頷く。

そう。

私には母がいた。

いつもそばに母がいたから幸せでいられた。父なんかいなくたって……。

ただ、どうして父が私たちから離れていったのか、その理由は聞けないまま母は翌朝静かに旅立っていった。

私の大好きな母は、もういない。

亡くなった直後は、寂しくてずっと泣いていたけれど、美咲や、学生時代からの友人、職場の仲間がいつも私のそばに寄り添ってくれた。

しっかりと母の命と祈りを吹き込まれた私が出会った友人や仲間が母の代わりにいつもそばで支えてくれていると、ふと気づいた時から私は泣くのをやめた。

そう思ったら、不思議と強い気持ちが沸いてきて、今もこうして元気に立っていられる。私の中に息づいている母と一緒に。

だけど、時々思い出す父の存在が私を苦しめる。

父がそばにいてくれたら母はもっと苦労せず長く生きられたかもしれないと。

悔しさといら立ちがまだ見ぬ父に向けられた。

そのうち、父=男という存在に不信感を抱くようになり、今に至っている。

それなのに、神楽さんだけはどうしてもそうは思えない。いや、思いたくない気持ちが勝っていた。

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