冷徹上司の過剰な愛
お父さんの背中を見送ると、一気に静かになった病室。


こうしてお母さんと2人きりなのはいつぶりだろう?眠っているとはいえ、なんだかソワソワしちゃう。



「お母さん…?寝たままでいいから聞いて。」



側にある椅子にゆっくり腰掛けると、お母さんの顔を見つめた。



「あのね。今お付き合いしてる人がいるの。難波さんって言って、同じ会社で部署まで同じの上司なんだけど、ミスするたびに鬼の血相で怒るんだよ。なんかちょっとお母さんと似てるんだよね。」



会社で見る難波さんの姿を思い浮かべながら言葉を並べる。



「でもね。すっごく優しい人。ダメダメなわたしのことをすごく大事にしてくれるような人で、わたしにはもったいないくらい完璧なの。仕事も料理も出来て、顔はすごくかっこよくてさ?きっとお母さんも気にいると思う。」



もちろんお父さんもね。



「……会ってくれるよね?…難波さんと会ってよ、お母さん。……もちろん今すぐとは言わないよ。だけど…いつか会ってほしい。だから早く元気になって…?」



わたしにはまだまだお母さんの存在が必要だから。ちゃんと親孝行するまで元気でいてもらわないと困るよ。


わたしのこの気持ち…ちゃんと届いてるよね?


冷たいお母さんの手を包み込むと、涙が溢れた。


人生に後悔はつきもの。お母さんが倒れるまで後悔なんて他人事のように思っていたけど、過去を振り返れば後悔だらけの人生かもしれない。
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