すずらんに幸あれ!

「……おい」


しかし、どうしよう。

もし明日も来られたら『彼氏がいる』という嘘を貫き通すのが難しくなる。


「おい、聞いてんのか」


うるさいな。

今考え事してるんだから邪魔しないで───…。


「耳ついてんのか、おまえ。手離せって言ってんだろ」


ぐいっと後ろから手を引っ張られて、動かしていた足を止める。


「えっ、な、なんですか…?」

「『なんですか』じゃねえよ。二度も言わせんな。手離せって言ってんだ」

「手…??」


言われた通り、手元を見ると、私は男の子の手首をがっちり掴んでいることに気づく。


「あっ…えっと、ごめんなさい」


咄嗟に離すと、男の子は「ふんっ」と鼻で遇らい、こちらを見向きもせずに駅の中へと入って行った。

あまりにも素っ気ない態度に驚愕して、彼の背中を見送り、呆然と立ち尽くす。


な、なんて無愛想な人なんだ…。

おまけに口が悪くて、目すら合わなかった…。

まあ、いきなり名も知らない女子に手を掴まれて歩かされたんだし、とてつもなく警戒心マックスな雰囲気を出すのも納得がいく。

だけど、もう少し優しい言葉とかかけてくれてもよかったんじゃないか、と初対面の分際で烏滸がましいことを考えつつ、もう会うことはないであろう、無愛想男子に不満を抱いたのだった。

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