仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「あはは、どうせ、イメージをよくしたくて結婚したんでしょ? あなたも、あの男も」

後藤アナは憎々しげに顔をゆがめ、私をねめつける。

「結婚すればチャラ男って呼ばれなくなるって思ったに違いないわ」
「それなら、なぜあなたが選ばれなかったか考えてみるといいと思います」

私は挑むように彼女を見据えた。

「イメージ戦略だろうが、愛だろうが、結婚はともに歩む人を選ぶんです。私は彼を選び、彼は私を選んだ。それだけです」
「イメージのための結婚だって認めるのね!」

彼女が声を荒らげ、周囲にわずかにいた客がこちらを見る。その視線の間から、史彰が現れた。
私は目を見開き、彼を見つめる。

「史彰」
「夕子、遅くなった。悪い」

史彰は今朝の挙動不審な様子はどこへやら、私の肩に触れ、後藤アナを睨むように見た。

「後藤さん、これはどういうことですか? 私の妻まで連れ出して」
「あなたたちが嘘で結婚したって、今聞いたところよ!」
「嘘で結婚? 私が彼女を愛していないとでも?」

史彰の言葉には怒りと真剣さがにじんでいた。
私は肩に添えられた彼の手に自分の手を重ねた。それから後藤アナに向かって言った。

「もちろん、私も彼を愛しています。勝手に勘繰って、騒がないでください。あとね、人の夫に手を出そうとしないで。この人は、私の大事な人なの」

語調がどんどんきつくなるけれど、抑え込んでいた怒りが私も噴出しそうになる。
いや、落ち着こう。ここで騒ぐのはよくない。

史彰が低い声で告げた。

「後藤さん、昨日の音声は佐田プロデューサーにも共有させてもらいました。これからは、個人的に誘ったり、私の家族にまで迷惑をかけるような行動は慎んでほしい」
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