囚われのシンデレラ【完結】



あの人も、このラウンジに用があったんだ――。

それにしても、こちらへと向けられる視線に落ち着かない。

あの人もあの人で、ぶつかった女がここで演奏していると思ったら、驚いてつい見てしまうのだろう。そう分かっていても、あまりにじっと見られるといたたまれなくなる。

連れの人も気付いたのか、私に背を向けていたのに不思議そうに身体をこちらへと向けて来た。

 私を見る二人の眼差しに耐えられなくなって、思わず俯いてしまった。

 30分ほど演奏をしてから第一部を終えた。基本的に、30分の演奏のあと30分休憩する。それを計3セット繰り返す。第一部の演奏を終えてお辞儀をした後、そっとあの人のいた席の辺りを見てみる。もうこちらは見ていなくて、連れの人と何かを話していた。

 出鼻からアクシデントに見舞われたが、初日の仕事を無事に終えることが出来た。これから3月末まで、ほぼ毎日ここに通うことになる。

「――では、お疲れ様でした。失礼します」

着替えを済ませ、バイオリンケースを肩に背負う。挨拶をしたら、もう次の場所へと急がなくてはいけない。

 控室を出て、今度はしっかりとケースの鍵をバッグにしまい足早に歩き出した。

 
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