囚われのシンデレラ【完結】


 二度目の、オーケストラとの合わせの日がやって来た。あんな風に舞台を投げ出してしまった身だ。あの場に立つのは、正直怖い。

でも――。

大学内のホールに向かう途中、トイレの洗面所で冷たい水を顔に浴びせた。そして、パンパンと頬を両手で叩く。

しっかりしろ。自分の演奏を精一杯することだけを考えろ――。

自分の身体に気合いを入れる。

 この日まで、寝る間を惜しんで練習して来た。もう、何も考えない。ただ、最高の音を出すことだけを考える。顔をハンカチで拭き、背筋を伸ばした。

「前回は、大変申し訳ありませんでした」
「今日は? 前回のようなことはないな? オケに迷惑を掛けたら、容赦なく追い出すぞ」

舞台袖にある椅子に腰かけている指揮者に、深々と頭を下げ身体を起こす。そして、真っ直ぐにその目を見た。

「大丈夫です。もう、あんな無様な姿は見せません」
「……分かった。じゃあ、準備して」
「ありがとうございます」

もう一度頭を下げて、立ち去る。

 恐怖も不安も、全部捨て去った。私はバイオリンを弾くために、ここにいる。


 そして、11月末、コンサート当日を迎えた。

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