囚われのシンデレラ【完結】
大学での練習を終えて、自宅最寄り駅へとたどり着いた時には、時計は23時を指していた。
帰宅する人たちの波に紛れて改札から出る。
「あずさ」
駅前の広場を過ぎてすぐに広がった住宅街を歩いていると、背後から声を掛けられた。
「あぁ、柊ちゃんも今帰り?」
現れたのは、隣の家に住む同級生、加藤柊だった。
「ああ。今日はバイトある日だからな。おまえは、相変わらず練習の後か」
「まあ、そんなところです」
柊ちゃんと並んで歩く。
「おばさんから聞いたんだけど、バイト一つ増やしたんだって? ホテルのラウンジで演奏する仕事とかなんとか」
「うん。今日からね。来月からまた授業始まるから、今月は集中して稼いでおかないと」
同じ小中高に通い、柊ちゃんは私立大学に通っている。名門の慶心大に合格して、周囲を驚かせた。
小さい頃からいつも近くにいたから、お互いを知り尽くしている。私は一人っ子なこともあり、兄弟みたいな感覚だ。
「これだけ長い付き合いなのに、おまえの演奏ちゃんと聴いたことないんだよな。今度、ホテルに聴きに行ってやるよ。おまえの働きぶりを見てやろう」
もともと少し色素の薄い髪。黒目がちで丸っこい目。何となく童顔だから、同級生なのに私の中では弟だ。何に似ているかと聞かれたら、柴犬って感じだろうか。
「やめてよ。絶対来ないで」
「なんでだよ。そうやって、発表会とか演奏会とか、絶対俺を呼ばないよな」
そのくりくりの目を見開いて抗議して来る。
「だって、柊ちゃん、クラシックに全然興味ないでしょ。私が小学生だった時の発表会で、いびきかいて寝てたの覚えてるんだよ。あの時、この人はもう絶対に呼ばないって決めたの」
静かなホールで、私のバイオリンの音色と伴奏のピアノ、そして柊ちゃんのいびき。そのハーモニーと言ったら……本当にサイアクだった。
「いいよ。別におまえの許可なんかいらねーし。じゃあな」
「ちょ、ちょっと――」
逃げ足の速い奴め――。
いつの間にかたどり着いていた柊ちゃんの家の前で、言いたいことだけ言うとさっさと家の中に入ってしまった。