囚われのシンデレラ【完結】


「ただいまー」

自分の家に入った途端に、一日の疲れがどっと肩に落ちて来た。最後の力をふりしぼり、靴を脱ぐ。

「おかえり。ホテルのアルバイトどうだった?」

既にパジャマを着ている母が、ニコニコ(ニヤニヤ)としながら駆け寄って来た。

「なんでそんな顔してんの……?」

訝し気にその顔を見る。

「だって、自分の娘がたくさんの人が聴いているところで演奏してるなんて、なんだかカッコイイじゃない? お母さんも聴きに行こうかな」

「お母さんまでやめてよ。演奏会じゃないの。仕事だから」

そう抗議しながら家に上がる。

「あずさの一番のファンはお母さんだし。一番の追っかけもお母さんだし? あずさが演奏しているところにはどこにでも出かけて行きたいじゃない」

まったく……。

呆れつつも、結局笑ってしまった。

「はいはい。そうだね。お母さんが私の一番のファンだよ。ありがたいです」

「何よその言い方。お母さんじゃ不服みたいじゃない」

「そんなことないよ。本当に、感謝しています」

わざとらしく深々と頭を下げてみる。

「――あずさも今帰りか? ちょっと遅いんじゃないか?」

玄関で母と話していたら、父も帰って来た。

「いつも同じこと言うよね。夜10時過ぎまで大学で練習しているんだから、決まってこの時間になるの。いい加減理解してよ」

「心配なんだよ。年頃の娘がこんな夜中に歩いているのかと思うとな」

困りきったような目でそんなことを言う。

基本的に怒ったところを見たことがない、温厚を絵に描いたような父親だ。

 サバサバ元気な母親とそれを微笑んで見守る父親。お似合いの組み合わせだと思っている。こうして、我が進藤家は成り立っているのだ。

「駅に着いたら連絡しないさいと言っているだろ? 家にいれば迎えに行くし、時間が同じなら駅で待ち合わせられる」

「大丈夫だって。それより、お父さんも遅いんじゃない? いくら仕事でも、もう若くないんだから無理しないでよ」

父の帰宅時間はいつも遅い。むしろ、そっちの方が心配になる。

「大丈夫だよ。おまえの学費が励みになって、仕事に対する意欲が増してるんだからね」

そう言って、少し疲れた笑顔を見せてくれた。

 中小企業のサラリーマンで、夜遅くまで必死に働いている父。私の学費の足しにするためにパートを掛け持ちして頑張ってくれている母。うちは、決して裕福ではない。この家も、戸建てだとは言え賃貸だ。バイオリンの練習のためにと選んでくれた。会社から住宅手当が出ているからこそ住むことができる。 
 私がバイオリニストになる夢を叶えるために生活を切り詰め応援してくれているのだ。

 両親には、感謝してもしきれない。二人を笑顔にするためにも、私は私で絶対に夢を叶えたい。


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