囚われのシンデレラ【完結】
クリスマスも終わり店が落ち着いた頃、店長に結婚したことと近々辞めさせて欲しいことを伝えた。
「……結婚? 辞める?」
「突然すみません。お店に迷惑にならないようにしますから、とりあえず求人を出していただけますか?」
ランチタイムとディナータイムの間の時間、店長と店内のテーブルで向き合って座る。
「……そっかぁ。進藤さん、しっかりしてるからすごく助かっていたけど、でも結婚して幸せになるんだもんな。ここは祝福してあげないと」
「ありがとうございます」
音大をやめてからずっと働いて来た店だ。愛着もある。でも、自分で選んだ道だ。西園寺さんの妻として、出来る限りのことをしたいと思っている。
その日のディナータイムが終わって店を出ると、店の外に柊ちゃんが立っていた。
「よう。久しぶりだな」
「今日はどうしたの?」
少し、気まずい。それは、西園寺さんに再会したことも、結婚したことも、柊ちゃんには何も報告していないからだ。
「ああ。俺、今月長期で海外出張に出ててさ。それで、おまえにお土産買って来たから、空港からそのまま来たんだ」
「あ……そっか、ありがとう」
差し出されたカラフルな紙袋を受け取る。
「おまえもこれから帰りだろ? 一緒に帰ろうぜ――」
「ごめん、柊ちゃん」
既に歩き出していた柊ちゃんの背中に声を掛けた。
「私、今、あのアパートには住んでないの」
「え……引っ越したのか? そんな話全然していなかったじゃないか」
「うん。実はね、私、結婚して家を出たの」
柊ちゃんが固まったように私を凝視した。かと思ったら、いきなり笑い出す。
「お、おい。それ、なんのジョーク? 結婚て、おまえそんな相手いなかっただろ。くだらない冗談はいいから、早く帰ろうぜ。寒くてたまんねーわ」
「本当なのよ。ついこのあいだ、入籍したの。ごめん、報告できなくて。お母さんが心臓の手術したりいろいろあって、連絡出来なかった」
本当は、柊ちゃんには言いづらかったということもある。西園寺さんと結婚したなんて言ったら、間違いなく問い詰められる。それがイヤだったのだ。どう考えてもまともな結婚じゃない。
「……おまえ、何言ってんだよ。そんな大変なことがあって、どうして俺に何も――」
表情を強張らせた柊ちゃんが、私に詰め寄る。
「って、おまえ、そんな時に結婚なんて、どういうことだ! この前会った時にはそんなこと一言も……ふざけんなよ。相手は誰だ!」
どうせ、隠し通せることではない。
「結婚したのが本当なら、早く言え!」
「……西園寺さんだよ」
「は? おまえ、何言ってんの? そんなわけないだろ。だって、あの人とはとっくの昔に別れてるじゃねーか。あいつ、結婚したんだろ? それなのになんで――」
「いろいろ事情があって。お母さんのこととか、いろいろ力になってもらってる」
「おまえ――」
目の前に来た柊ちゃんが、その表情を怖いくらいに歪ませる。
「どこまで、俺を苦しめる? どうして、おまえはいつも――」
「柊ちゃん……っ?」
ひったくるように肩を引き寄せられて、きつくその腕に閉じ込められた。
「ちょっと、離して!」
「あいつと結婚したって……どうしてだ!」
「柊ちゃん――」
「そんなの認めるわけないだろ。そんな馬鹿な話があってたまるかよ。あいつに何を言われた。どうして急に結婚なんて話になった!」
肩を思い切り強く掴まれて身体を離したかと思うと、私に向かって叫んだ。
「私の意思で結婚したの。誰が何を言おうと、自分の決めたことだから後悔しないよ」
「俺は、おまえのことをずっと……今度こそおまえに――」
柊ちゃんが激しく頭を振る。
「どうせ、いいように使われてんじゃないのかよ。また、おまえが傷付くんじゃないのか? 俺は、絶対にそんな結婚、認めないからな!」
「柊ちゃん!」
興奮したままで、柊ちゃんは走り去った。
やはり怒らせてしまった。でも、どれだけ柊ちゃんに怒られても、これは私が決めたことだ。