囚われのシンデレラ【完結】


 それから30分ほどして、由羅さんがやって来た。やはりその表情は険しい。

「――あの時、私と会ったこと、兄に言わずにいてくれたことは感謝してます」

ダイニングテーブルで向かい合って座る。由羅さんがそう言うと、俯いていた顔を上げ私を真っ直ぐに見た。

「今日は、どうして結婚することになったのか教えてほしくてここに来ました。兄は、私たちに何も話してはくれません。あんなに苦しんだのに、兄はどうして今更あなたと結婚するの? どう考えてもおかしい」

由羅さんが本当に困惑していることが、その表情からうかがえる。西園寺さんが話していないのに、私が勝手に今回の経緯を教えてしまっていいのか。躊躇っていると、由羅さんが先に口を開いた。

「7年前、あなたと別れてから兄は人が変わったようになりました。それだけ、兄にとってあなたとのことは辛い思い出のはずなんです。なのに、どうしてあずささんと一緒にいることにしたのか。私には分からない。今度はどうやって、兄に取り入ったの?」

由羅さんが口にした『裏切り』という言葉。

7年前の別れに、私が知らないでいることが絶対にある――。

そう確信した。

「私も教えてほしいんです。挨拶に伺わせていただいた時、由羅さん言いましたよね? 7年前、佳孝さんが自分の想いを貫こうとしたけど、結局裏切られたって。その裏切りって、どういう意味なんですか?」

それを知りたい。

「……そうやって人のよそうな顔で、兄を騙していたんですよね。本当に、凄い人ですね」

由羅さんの目が、心から軽蔑しているように私を見ている。

「騙していたって、どういうことですか? あの時、佳孝さんには縁談があったんですよね? 会社を守るためにはその縁談がどうしても必要だと聞いたんです。だから、私は――」
「あの時、私たち家族も遥人君も、お兄ちゃんに、好きな人のことは諦めて欲しいと言った。必ずいつか、いい思い出に出来るからって。お兄ちゃん自身も板挟みになって、とっても苦しんでいたから。だから、偶然あずささんに会った時に、私はあなたにあんなことを言ったんです。
でも兄は、絶対に頭を縦に振らなかった。こんなに好きになれる人はいない。別れてしまったら一生後悔するって。兄は、何があってもあなたを選ぶつもりでいたんです。なのに……」

そう言った由羅さんの表情が歪む。

「そんな兄を、最初から騙して裏切っていたのはあなたでしょ!」
「待ってください。騙すって何ですか?」

最初から?
騙す?

訳が分からない。

「そこまでしらばっくれるなら、言ってあげます。あなたは、付き合っている人がいながら、兄のことも好きなフリをした。兄のステイタスに惹かれて、清純な女を演じたの。兄の想いを踏みにじった!」
「……何を、言ってるんですか?」

由羅さんの憎しみに満ちた表情が、私を激しい混乱に陥らせる。

付き合っている人って、何?
この人は何を言ってるの――?

「会社が危ないと知って、兄といることに何のメリットもないと思ったあなたは、あっさり兄を捨てたんじゃないですか」
「そんなこと、誰が――」

身体中から血が引いていく。

「兄の名誉のために言っておきます。兄はあなたのことで何かを言ったことはありません。ただ何も言わずに、この7年間その傷と向き合って来た――」
「誰がそんなことを言ったのかを教えてっ!」

私は耐えられずに叫んでいた。

「……遥人君よ」

斎藤さん――。

目の前から景色が消えて行く。

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