囚われのシンデレラ【完結】

「――ごめんなさい」

真向かいに座る由羅さんが俯く。

「私が遥人君から聞いたこととは違う、ほかの事情があるのかもしれないけど。でも、あずささんのことをすぐに信じられるわけじゃない。だって、私にとってはあずささんより遥人君の方がずっとよく知っている人なんです。私が生まれた時からいた人。その人よりあずささんを信じるなんて、簡単に言えると思いますか?」

そう言って由羅さんが顔を上げた。彼女を見て頭を横に振る。

由羅さんの言うことはもっともだ。私より、斎藤さんとの関係の方が長くて深い。どちらを信用するかなんて聞くまでもない。

それはつまり、西園寺さんにとっても同じ――。

西園寺さんが、誰よりも斎藤さんを信頼していたことを知っている。小さい時からずっと一緒にいた人だ。


 由羅さんが帰って、この部屋に一人になる。日が暮れても、夜が来ても、部屋が夜の闇で覆われても動けずにいた。

「――電気も点けずに、何をしてる?」

突然明かりが広がって、ハッとする。

 後ろを振り向くと、コートを着たままの西園寺さんの姿があった。私を訝しげに見ている。その赤の他人を見ているような目が、この時ばかりは耐えられなくて。感情のままに言葉を発してしまっていた。

「西園寺さん。私はずっと、あなたのことだけを好きだった。他に誰かなんていなかった。本当です。信じてください」

――信じてください。

自分で放った言葉なのに、苦しくなるほど虚しく響く。

「……突然、どうしてそんなことを言い出す? 誰かに何か言われたのか」

私から目を逸らした西園寺さんが哀しくて、椅子から立ち上がり駆け寄る。

「私がこれまで好きになったのは、西園寺さんだけです!」
「やめてくれ。過去のことは蒸し返したくないと言ったはずだ」

私に背を向けようとした西園寺さんの腕を掴んだ。

「教えてください。西園寺さんは、この7年何を思っていたんですか?」
「やめろと言ったのが、聞こえないのか?」
「一体、何を聞いたの? 私はどうやってあなたを裏切ったんですか――っ」

苦しくて、その腕をきつく掴む。どこかに行ってしまわないように力の限りで掴む。

「……それを、俺に言わせるのか?」

背け続けた顔を、私の方へと向けた。

その目は――怒りじゃない。私の胸の奥まで突き刺さる、深いまでの哀しみだった。

「もうやめてくれ。君の口が嘘を吐くのを見ることが、どれだけ苦しいか分るか」

その苦痛に歪んだ表情に、呼吸を忘れる。

「――離してくれ」

立ち尽くす私の腕を振り払う。そして、西園寺さんは私に背を向けた。

「とにかく。もう昔のことだ。全部忘れた」

バタンと閉じられたドアは、まるで西園寺さんの心みたいに目の前で私を締め出す。苦しくて息が出来ない。でも、私は真実を知らなければならない。

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