囚われのシンデレラ【完結】
ラウンジでの演奏を終えて、控え室を後にしたところだった。
「また会ったね」
声を掛けて来たのは、“よしたかさん“の方ではなく一緒にいる男の人だった。この日も二人は一緒にいるみたいだ。仲の良い友人同士……そんな感じだろうか。
これだけ偶然が続くと、もうどんな顔をすれば良いのか分からなくなる。連れの人の一歩後ろに立つよしたかさんの表情は動かない。優しそうな目をした連れの人が、私に微笑み掛けて来た。
「――と言っても、多分、これからも会うことがあると思うんだけどね」
「……え?」
柔らかな雰囲気のまま吐かれたその言葉の意味がよく分からなかった。
「僕たち、このホテルで昨日から仕事していて。君も、ラウンジで1か月くらい演奏するんだろう?」
「……はい」
こうして改めて見ると、とても綺麗な人だ。男の人に使う形容詞としては相応しくないかもしれないけれど、ぱっと浮かんだ言葉はそれだった。落ち着いた雰囲気から、私より年上に見える。そして、この人からも品の良さを感じた。アルバイトなんて縁のなさそうな人たちだと勝手に思っていた。
「学生最後の春休みなのにね。僕はまだしも、彼は本当はアルバイトなんてする必要がない人間なんだけど。お父上が厳しいから、他の人間と同じように修行して来いなんて言われて、な?」
どうして見ず知らずの私にそんなことを――。
「おい、何を言って――」
疑問に思っていたら、初めてよしたかさんも表情を変えた。それを無視して、その人は話し続ける。
「彼はこのホテルの創業家の息子なんだ」
このホテルの――?
良家の息子さんなんだろうことくらいは想像していた。やっぱり凄い家の人だったのだ。
「やめろ。余計なことを言うな」
よしたかさんが遮る。
「将来のCEO候補だ。でも今は、このホテルの裏方で雑用のアルバイト中。これから、会うこともあるだろうからよろしくね。で、君の名前は――」
その話の内容にも、どうしてそんなことを私に話して来るのかも疑問を感じながら、今度は私が話を遮った。もう、時間がない。
「私、これからすぐバイトに行かなくちゃいけなくて。ごめんなさい、失礼しますっ!」
ぶんっと勢いよく頭を下げて、すぐに走り出した。
「あのコンビニ? 頑張ってね」
背後から優しげな声が聞こえて来て、素早く振り向きその柔和な笑みに会釈をした。そして前を向く。