囚われのシンデレラ【完結】

 案内された部屋は、引っ越したばかりのように段ボールがいくつか積み重ねられていた。

「ここは、年明けから西園寺部長が使われる部屋なんです。役員になられるので個室が割り当てられます。今日はその準備をしておりました。部長は本日、会合に出かけられているので社にはいらっしゃいません」
「斎藤さん。今日は、聞きたいことがあってここに来ました」

都内を見渡す窓ガラス。そのそばに立つ斎藤さんに声を掛ける。余計な前置きはいらない。

「7年前、私のバイト先に来ましたよね。その時、斎藤さんはもう西園寺さんには会わないで欲しいと言った。私が西園寺さんと別れなければならなかったのは、西園寺さんには大切な縁談があったから。そうずっと理解していました。でも、西園寺さんはそう思っていない。一体、西園寺さんに何と言ったんですか?」

感情的にならないようにと自分を律しているつもりでも、この声は震えてしまっていた。

「――私も、心を鬼にしてあなたのところに別れてほしいとお願いに行きました。それが、二人にとって最善だと信じていたから。私も苦しかった。お二人が心から愛し合っていると思っていましたから。でも、そうではなかったんですよね。あなたは、あろうことか二股をかけていた」
「今日は、どうしてそんなことを斎藤さんがおっしゃるのか聞きに来たんです」

何を根拠にそんなことを言い出したのか。それが知りたいのだ。膝の上の手をぎゅっと握り締め、斎藤さんをまっすぐに見る。

「――あなたのその目に、私も騙されたんです。あなたはそんな女じゃないと。でも、違った」

その声はほんの僅かも揺れることはない。

「あの頃。西園寺部長は、縁談を頑なに突っぱねていた。あなたを愛していたからです。父親である社長からそれはどこの誰だと問い詰められていましたが、あなたに迷惑がかかったら困ると思ったんでしょう。西園寺部長は決してあなたの名を明かさなかった。もちろん私からも社長にあなたのことを伝えたりはしなかった。そのせいで、密かに調べるように命じられたのです。それで私は知りました。あなたが裏切っていたことを」

感情の見えない視線が動く。そして胸ポケットから何かを取り出し、すぐ傍にあった机の上に投げ置いた。そこに散らばった写真を見て目を見開く。

「……これ、一体――」
「見れば分かりますよね? あなたと加藤柊さんですよ」

私と柊ちゃんが抱き合っている――。

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