囚われのシンデレラ【完結】

「この写真を見た時、私は怒りに打ち震えました。佳孝は、あなたのことを一点の曇りもなく愛していたのに、あなたは違った。抱き合うような人がいながら、清純なふりをして佳孝とも付き合っていた」

"西園寺部長"から、"佳孝"と以前と同じ呼び方に戻って。それが余計に、斎藤さんの怒りをあらわにする。

「私と彼は、付き合っていたりなんかしません。どうして、こんな――」
「でも、ここにいるのがあなたと加藤さんだということは動かしようのない事実ですよ」

夜の公園――。

私が柊ちゃんにきつく抱きしめられている。身体全体が写る写真、それにアップの写真。

いつ、こんな――。

その時、フラッシュバックのように記憶が蘇る。

帰り道、家の近くの公園、柊ちゃんと話をした――。

「私は、この写真を手に入れた時、佳孝に見せるのはやめようと思いました。彼が傷付くことが分かり切っているからです。写真を見せずに、ただひたすらに説得しました。ホテルのために彼女のことは諦めて結婚しろと。でも、あいつはあなたのことを諦めようとしなかった。だから言ったんだ」

唇が震えて声が出ない。

「あずささんには、付き合っている人がいる。だからもうやめろと。そう、写真は見せずに伝えました。
セレブの男との非日常の恋愛に憧れてしまうことは若い女にはよくあること。恋人がいても、佳孝のような男に言い寄られて、ついいないふりをしてしまったんだろうって。でも、佳孝は私の話をまったく信じなかった。可哀想なくらいに君を信じ切っていた。20年来の親友が言うことより、あなたのことを信じたんだ! だからこの写真を見せたんだよ」

柊ちゃんの手のひらが私を強く抱き、角度のせいで私も抱きしめ返しているように見えた。また、別の写真は、キスしているようにさえ見えて。目を背けたくなる。

「――恋に溺れた男は憐れだな。その写真を見てもまだ、君を信じようとした」

震える唇を手で押さえる。

「一番近くにいて接していたのは自分だからって。君はそんな子ではないと断言した。君に直接会って話をするまでは何も信じないと言ったんだ。私は必死に止めたのに君のコンサートに行ったんだよ。絶対に行くと約束したから行かなければいけないって」

西園寺さんはやはり、あの日、来てくれていたのだ――。

「とどめを刺される前に、やめておけば良かったのに。結局、自分の目で見ることになってしまった」
「……何を?」

取り返しのつかない事実が猛スピードで押し寄せて来るみたいで。呼吸すらままならない。

「彼が君を抱きしめているところだ」

あの日、西園寺さんの姿を見て追いかけて。それを柊ちゃんに止められたんだっけ。止められただけじゃなかった。あの時も、抱きしめられたんだ。

私の知らないうちに、二度もそんなところを西園寺さんに見せていた。

「佳孝にとって、騙されたのは二度目だ」

そうだ。
斎藤さんから、西園寺さんの過去の恋愛の話を聞いたことがあった。
本命の恋人がいたのに、西園寺さんの持っているもの目当てに近付いて来た女の子がいた。それから、西園寺さんは女の人には慎重になったのだと聞いた。

「それも一度目とは全然違う。心から愛していた君からの裏切りだ。その愛情が深く純粋であるほど、その分だけ裏切られたら傷は深くなる。もう、君を信じることはないだろう」

――もう、君を信じることはないだろう。

その言葉が、私を底のない闇へと落とす。

「それなのに、一体佳孝は何を考えてる? 誰にも、僕にさえ一言の相談もなく君と結婚していた。何がどうなったらこうなるんだ。いつ二人は再会した? 佳孝は何も語ろうとしない」

斎藤さんの言葉使いはいつのまにか、過去のものに戻っていた。それだけ感情的になっている。
私だって、もうここに立っているのも辛い。

「センチュリーの次期社長だぞ? こんな身勝手な結婚、出来る立場にないんだ!」

西園寺さん。どうしてあなたは――。

「君は一体何をした? どんな手を使ったんだ?  僕は絶対に、君のことは認めない」

私を助けたりなんかしたの――?

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