囚われのシンデレラ【完結】
「あずさ……」
ドアを開けると、険しい表情をした柊ちゃんが立っていた。
「俺、ずっと考えていた。おまえのことをずっと。俺と、結婚してほしい」
詰め寄るように、一歩踏み込んで来る。柊ちゃんの悲壮感に満ちた雰囲気と『結婚』という言葉が私を尻込みさせた。でも、自分を奮い立たせる。
「私も柊ちゃんに言いたいことがある」
真っ直ぐに、その何年も見慣れて来た幼馴染の目を見る。ドアが閉じる音がして、狭い玄関で向き合った。
「私が結婚した途端に、どうして急に柊ちゃんが『結婚』なんて言葉を出して来たのか全然理解できないけど。私は西園寺さんと結婚したの。この先柊ちゃんと幼馴染以上の関係になることは絶対にない」
「おまえが結婚したことなんて分かってるよ。俺はそんな結婚認めない」
「どんな結婚であろうと関係ない。私にとって一番大切な人は西園寺さん。私が傷付けたくないのも、守りたいのも西園寺さんだけ。柊ちゃんじゃない」
「おまえ……」
柊ちゃんの失望したような視線に、胸に針を刺されたみたいな痛みが走る。
小さい頃から、たくさん遊んで、たくさん喧嘩して、たくさん話をしてきた。どれだけ憎まれ口をたたき合っても、柊ちゃんのことは弟のように兄のように思って結局は大好きだった。
でも。
それが私側だけの思いなら、この関係とは決別しなければならない。ただ一つ守りたい物を守るには、決断しなければいけないのだ。
「7年前、西園寺さんと別れなければならなかったとき、西園寺さんに酷い誤解をさせてしまっていたことが分かったの。西園寺さんは、私と柊ちゃんが付き合っていたと思っていた。今もそう思ってる」
「……それ、誰に聞いたんだ? あいつからか? あいつが言ったのか?」
より一層その表情を硬くして、声は低くなる。
「西園寺さんは何も言わない。過去のことを蒸し返したくないんだと思う。それだけの深い傷を与えてしまった。あんなに大切にしてもらっていたのに……いろんな誤解が重なって、多分もう、西園寺さんは私の言葉は信じてくれない」
「だったら、どうして結婚なんかしたんだ。余計におかしいだろ。あいつは何を思って結婚したんだよ。そんなの、そんなの……っ」
取り乱す柊ちゃんが私の腕を強く掴んだ。
「今すぐあいつから離れろ! おまえに裏切られたと思っているんなら、こんなのただのおまえを縛り付けるだけの復讐じゃないか。おまえが傷付けられるだけだ。だから俺は、あいつと結婚したと聞いてから、気が気じゃねーんだよ……っ!」
「好きなの。あの人が好きなのよ!」
柊ちゃんの目が揺らいで、腕を掴んだまま私から目を逸らした。
「だから、もうこれ以上余計な傷を与えたくない。できれば過去の傷も消したいの。柊ちゃんから、西園寺さんに本当のことを言ってほしい。私の言葉は信じられなくても、柊ちゃんが違うと言えば西園寺さんは誤解だったと分かってくれるかもしれない」
「……俺はおまえと結婚したいと言ったんだぞ? それなのに、どうしてそんなこと、俺に頼めるんだ?」
スローモーションのように向けられた、柊ちゃんの傷付いた目――。
分かっている。どれだけ残酷なことを言っているのか。
でも――。
「言ったでしょ? 私が一番に考えるのは西園寺さんのことだって」
真っ直ぐにその目を見る。苦しくても逸らさない。
「それが出来ないなら、もう二度と私のところには来ないで」