囚われのシンデレラ【完結】
その日の仕事終わり、細田さんの運転する車の中でもあれこれ考えていた。
漆原会長のことをどうするべきか。遥人も同じことを感じていた、公香さんの掴みどころのない危うさ――。
マンション前に車が停まった時、運転席の細田さんに声を掛けた。
「――細田さん、すみません」
「はい、何でございましょうか」
「申し訳ないが、社の周辺と自宅マンションの近くでこの人を見かけるようなことがあったらすぐに知らせてくれますか?」
漆原家から渡されていた見合い写真を細田さんに見せる。
「この方は――」
「今、俺に持ち上がっている縁談の相手です」
「え? 縁談って、今もですか……?」
「驚きますよね。結婚しているのに、本当に馬鹿げているのですが。ちょっと話がこじれてしまっていて。そうは言っても、彼女がこんなところに現れるとは考えにくいのですが、あくまで念のためです」
「分かりました」
そう言って写真を受け取った細田さんに、言葉を続けた。
「それから、これからも妻と斎藤がいるところをもし見かけたら教えてください」
「承知いたしました」
「すみません。よろしくお願いします」
ドアを開けようとしたら、細田さんが素早く回って来て、そのドアを外から開ける。
「――本当に奥様のことが大事でいらっしゃるんですね」
車から降りると、にこりとしながら細田さんが言った。
「目は口ほどにものを言うといいますから。常務が奥様の話をされるときは、いつも目が何かを語っていますよ? 優しい目になったり、心配そうな目になったり。その目はいつも雄弁だ」
「そうですか? なんだか恥ずかしいですね……」
細田さんには見抜かれてしまっているのかと思うと、気恥ずかしい。
「それは奥様も同じですよ」
「……え?」
「どうしてそんなに驚いた顔をなさるのですか? 奥様が、朝、いつもどんな風に常務を見送られているかご存知ではないんですか?」
そう聞いてくる細田さんを、ただ見つめる。
「常務からはお分かりにならないかもしれませんが、私はいつもバックミラーで見ていますからよく分かります。この車が視界から消えるまで、いつもずっとエントランスに立っていらっしゃいますよ」
あずさが――?
「どうしてでしょうね。赤の他人ならこんなにもよく分かるのに、分かり合うべき人たちほどそれを見抜けなかったりする。人間というものは厄介なものですな」
アハハと言って笑うと、「申し訳ございません。ついつい余計なことを口にするのが私の癖で」と頭を下げ運転席へと戻って行った。