囚われのシンデレラ【完結】
玄関の扉を開けると、いつものようにバイオリンの音が聞こえて来た。同じフレーズを何度も繰り返しているようだ。
廊下を過ぎて、リビングダイニングへと続くドアから足を踏み入れる。あずさが熱心にバイオリンを弾いている姿があった。
「あーっ。何か違うんだよな……。どうして、出来ないんだろ」
音を止めては、ぶつぶつと言って、また音を響かせる。
本当に、練習に入り込んでいるんだ。
あずさは俺が帰って来てもすぐには気付かない。だからこそ、こうしていつもあずさの姿を眺めていられる。
少し口を尖らせている。それは、自分の演奏に納得が行かない時。
眉間に皺を寄せている時は、切ない旋律を奏でる時。
口角が上がる時は、明るくリズムのよい旋律を弾いている時。
昔も今も、あずさが演奏している姿が好きだ。
あの細い身体全部で表現する時、おそらくあずさが一番自分を曝け出せる瞬間だと思うからだ。
「うあーっ! 7年前に戻りたいっ!」
あずさが突然叫び出した。
「そんなの無理だし。できないこと言ってどうする」
今度は自分で自分を嗜めている。
「無理だと分かってても言いたくなる。この、腕! 言うこと聞けー」
ああ、もう無理――。
無理なのは俺の方だ。堪えきれずに笑ってしまった。
「あ……っ。す、すみません! 帰って来ていたんですね?」
俺に気付いたあずさが、慌てふためく。
そんな姿も、本当に可愛い。
あずさを見ていると、どうしても心の奥が緩んでしまう。
「ごめん、あまりに面白くて、ついこっそり見ていた」
「どこから見ていたんですか?」
「『どうしてできないんだ』って、言っていたあたりからかな」
「え……っ、そんなところから? 酷い! 早く声を掛けてくれればいいのに」
「ごめん、ごめん」
少しムッとしたあずさに謝る。
怒る顔も可愛く見えるのだから、何をしても無理なのだ。