囚われのシンデレラ【完結】
”――ヨシタカの覚悟は分かった。でも、君が言う通り、本人の強い意思が必要だ。それがあっても成功できる人間なんてほんの一握りなんだから”
”それは、もちろん理解している”
最後に決めるのはあずさだ。
成功できるかどうか。そんなことは誰にも分からない。夢破れる可能性もある。でも、挑戦できることが大事なのだ。
あずさにとって、父親が亡くなった瞬間から、挑戦する道すら絶たれてしまった。
今のあずさの中には、そんな選択肢すらないだろう。自分では、もう叶わないことだと最初から考えることもしていない。
だから、その道もあるのだとあずさに分からせたい。
”今のアズサは、ただヨシタカに喜んでもらうためにバイオリンに向き合っているように感じる”
”……え?”
”それだけではだめだぞ? 不特定多数の人の前で弾く喜びを思い出させないと。多くの人に、自分の音を届けたいと思う。それがプロだからな”
人前で弾く喜び――か。
初めてのサロンコンサートの時。たくさんの拍手を受けて、あずさの目が潤み輝いていたのを思い出す。
あの感覚を、思い出させる――。
”分かった”
”チャイコフスキーを目指すなら、アズサは年齢制限ギリギリ、最後の挑戦になる。ただでさえ7年のブランクがあるんだ。そんなに時間に余裕があるわけでもない。
本人の気持ちがどうなのか。もう少しレッスンをしてから、私からもゆっくり話をしてみよう”
”よろしくお願いします”
ソコロフが部屋に戻り、バーに一人になる。
目の前のウイスキーは氷が解けて、薄まり切っている。
グラスを手のひらの中で持て余しながら、あずさのことを考えていた。