囚われのシンデレラ【完結】
午後から仕事に行くため、俺だけ一人部屋を出る。
「――今日は本当にありがとうございました」
俺を見送りに、マンションのエントランスまであずさが付いて来た。
「今日は久しぶりの親子みずいらずだ。お母さんのそばについてあげたらいい」
「はい。そうさせていただきます」
あずさが小さく頭を下げた。
「……それと」
その頭を上げ、俺を見上げる。
「ご両親のことも、ありがとうございました。うちの母のことを考えてくださったんですよね。ご両親は、私たちの結婚を反対していますから。それを母が知ったら心配させるって」
「ああ……。お母さんには申し訳ないけど、今は上手く君からも誤魔化しておいてくれ」
「はい」
少し、胸が痛む。
「じゃあ、行って来るよ」
「はい。行ってらっしゃい」
あずさに背を向け、マンションを出た。
その日も、会議と打ち合わせ、会食などがあり帰りが遅くなった。
「細田さん。いつも、帰宅時間が遅くなって申し訳ないです」
「いえいえ、これくらいの時間なら問題ありません」
いつものようににこやかな声で答える。
細田さんは、俺が小さい時から西園寺の家で働いていた。庭でちょろちょろ歩いていると、いろんな話をしてくれたものだ。
両親とはまた違う、細田さんの人と人とのエピソードが興味深くて。その時から「またお喋りが過ぎました」というのが口癖だった。
腕時計に目を向ける。
22時か。あずさは、今日は泊まって来るかな――。
今のところスマホに連絡はない。
そろそろ自宅マンションに着くという頃、横に置いた鞄に手をかけた。
「――あれ、エントランスにいるの、奥様では?」
「え……?」
細田さんの声に思わず、身を乗り出す。目にした光景に、鼓動がドクンと大きく響く。そして、すぐに目を逸らした。
ここの場所まで、知っているのか――?
「一緒にいる男の方は――」
「すみません。家には戻らず、引き返していただけますか」
「え? あの、でも」
「お願いします」
このまま車を進めたら、あの二人と鉢合わせることになる。
「……承知致しました」
マンションの敷地には入らず、少し離れたところまで停車させた。
「ここで、停まっていればよろしいですか?」
「あ……は、はい。すみません」
後部座席で、深く背をシートに埋める。
路地裏に停められた車内に沈黙が流れて。少し経った時、運転席の細田さんが口を開いた。
「――申し訳ございません。差し出がましいのを承知で言わせてください」
前を向いたまま、細田さんがそんなことを言う。