囚われのシンデレラ【完結】
「……私の誕生日に、お願いを聞いてください。それが何であろうと聞いてほしいんです」
「何でも……か?」
あずさの言葉に拍子抜けしたけれど、その表情があまりに悲壮感漂うもので笑うに笑えなかった。
「はい。どんなことでも絶対に。それを私への誕生日プレゼントにしてください。年に一度の誕生日だから、無理を言っても許してください」
俯いたまま、ただ俺の腕をじっと掴んでいる。
「少し怖いな……でも、分かった。何でも、言うことを聞くよ」
「本当? ホントに?」
あずさが勢いよく顔を上げた。
「自分で言っておいて、おかしな人だな」
「いいって言ってくれるとは思わなくて。ダメもとだったから、びっくりして。でも、ありがとうございます。本当にありがとう」
あずさが何度も頭を下げる。
「どんなお願いをされるのか、覚悟しておくよ」
「拒否権なしのお願いですから。よろしくお願いします」
冗談抜きで恐ろしいが。
でも、こんなにも喜ぶのなら、それであずさが救われるのなら、どんな願いでもいいような気がして来る。
それからすぐの、三月に入ったばかりの日のことだった。
「――常務、漆原会長がお見えになっております」
「え……? 電話ではなく、ここに来ているのか?」
「はい」
今、海外に新たなホテルを建設するプロジェクトが動いている。担当部署から上がってきている資料を読み込んでいるところだった。
目の前に立つ遥人が、表情の読めない目で俺を見下ろす。
「そんな連絡は受けていない」
「はい。アポなしで突然いらしているので」
慌てた様子もない遥人を睨みつける。
「忙しいから会う時間は取れないと伝えろと言ったな?」
「もちろんお伝えしております。それでもいらしてしまわれたので」
「――おまえ。敢えて、こうなるように仕向けたか?」
日に日に色を失くして行く遥人の目を射るように見た。
「なぜ私がそのようなことをする必要が?
それより、早くお通ししないと失礼にあたります。ちょうど会議等の予定も入っておりません。社長からもきちんと対応をするようにとのご連絡いただいております」
先に、父親の方に行ったということか――。
今現在、漆原と一緒に何か事業をしているということはない。完全に、縁談の話だ。
これ以上、何をしろというのか。
仕方がない。同じことを会長にも繰り返すしかないだろう。
「――ここに呼べ」
「かしこまりました」
仰々しく遥人が頭を下げ、部屋を出て行った。
大きく息を吐き、投げやりに背を背もたれに預ける。