囚われのシンデレラ【完結】
ホールを後にして、二人でホール近くのイタリアンバルに入った。お酒と料理を楽しめる、敷居の低い雰囲気が私にはありがたかった。
「このお肉、美味しい!」
かなりの時間煮込んだと思われる、とろとろのお肉に声を上げた。
美味しいからと、大きめのままのお肉を口に入れてしまう。一人声を上げ、美味しい美味しいと次から次へと食べるのは、極度の緊張のせいもある。
そう広くはない店内に、テーブルがひしめきあっているせいで向かい合う距離は近い。窓際のこのテーブルは、自宅のものよりずっと小さい。
「……唇の横、ソースがついてる」
「えっ!」
西園寺さんがくすりと笑う。真正面から見られていると思うと、余計に慌てる。バッグの中のハンカチを必死に探すのに、こういう時に限ってすぐに出て来ない。
「あれ、何で、出て来ないんだろ――」
私は、どんな無様な姿を晒したままでいるのか。焦りが募る。
「……あずさ、こっち向いて」
「え――」
顔を上げた瞬間に、西園寺さんの手が伸びて来る。
「――もう、取れた」
ほんのわずか触れた西園寺さんの指の感触が、じんじんと頬に残る。
目の前の西園寺さんは、既にグラスを手にしてワインを一息に飲み干していた。
思わず、その姿を見つめてしまう。空になったワイングラスをテーブルに置くと、視線を窓の外の景色へと移した。その西園寺さんの横顔が何故か私の胸を刺激して、咄嗟に明るい声を作る。
「こ、このワイン、飲みやすくて美味しいですね」
「あまり、飲み過ぎるなよ?」
私の方に顔を戻してそんなことを言うから、思い出したくもないことをまた思い出してしまう。
「そ、その節は、ご迷惑をおかけしてすみません……気を付けます!」
勢いよく頭を下げる。そうしたら、少しトーンの下がった声が耳に届いた。
「……まあ、でも。美味い酒を飲んで難しいこと全部忘れられるなら、それもいいよな」
「西園寺さん……」
「二人で、泥酔でもするか? 泥酔して騒ぐ?」
そう言って笑っているけれど、その目は笑えていない気がして。
「――なんてな」
息を吐くような声を発した後、西園寺さんが空になったグラスにボトルのワインを注いだ。そして、またそれをすぐに口にして少し顔を俯かせる。
その伏せられた目が、西園寺さんの顔に影を作る。そのせいで、少し痩せたように見えた。