囚われのシンデレラ【完結】
「お仕事大変なんですか? 細田さんから、最近西園寺さんがお疲れみたいだって聞いて。それに、帰りも遅いでしょう?」
やはり、私から見ても西園寺さんは疲れているように思える。
「お疲れなのに、今日、誘ってもらっちゃって――」
「少し、仕事が忙しいだけだ。今日は、むしろ気分転換になって良かった。あずさとコンチェルトを聴けて良かったって思ってる」
どう言えばいいのかは分からない。
目の前にある西園寺さんの表情が、いちいち心をざわつかせるのだ。
西園寺さんのお酒のペースも早い気がする。その目が、少し赤い。
「……あずさは、あのコンチェルト聴いてどう思った? 泣くぐらい何かを感じたんだろう? また、オケとやってみたいって思わなかった?」
西園寺さんが私を探るように見る。
「そう、ですね……。絶対無理だからこそ、もう一度あの感覚を体感出来たら幸せだろうなと思いました。生の音の持つ強さは、やっぱり全然違いますよね」
もう一度――なんて、私の立場では言うべきじゃないとも思ったけれど。
私は、やっぱり西園寺さんに嘘の感情は口に出来ないみたいだ。
コンチェルトを聴いて、過去の感情のフラッシュバックが洪水のように押し寄せて。間違いなくもう一度味わってみたいと思ったのだ。
「……絶対無理か」
グラスに揺れる赤い液体を再び口にして、西園寺さんがぽつりと言った。
「世の中、”絶対”なんてない。自分で"絶対無理"だと思わない限り、な」
そして、またグラスを空にする。
絶対無理だと思わない限り――。
私が?
オケと?
そんなこと、有り得ない。できるはずがない。