囚われのシンデレラ【完結】
「あなたに、それだけの素質があるって言ってくれてるんだよ? プロであるソコロフ先生が言ってくれてるの。それだけ重みのある言葉だと理解して」
私がずっと憧れていたもの。
留学して、国際コンクールを目指す――。
それはもうはるか遠くにあって叶わない夢だと思って生きて来た。
バイオリンを弾くことが罪だとさえ思って。でも、西園寺さんに再会して、バイオリンにもう一度向き合う心を取り戻させてくれた。そして演奏する喜びを思い出した。
先日、西園寺さんと一緒に聴いたコンチェルトが頭の中で鳴り出す。
オケとバイオリンの掛け合いがホールを満たす、身体が震える感覚――。
いつもはその存在を感じることなく流れている血が、その存在を主張するみたいに身体を震わせるのだ。
”モスクワでニ年間みっちり腕を磨いて、コンクール本選まで残ることを目指す。その気持ちはあるか?”
ソコロフ先生の厳しい眼差しが私に向けられる。
「突然のことで、全然実感が湧かないんです。そんなこと、想像すらしていたなかったから……」
”その気がないなら、そう正直に言いなさい。成功する保証なんてどこにもないんだ。
ただでさえあずさは、コンクールの年齢制限ぎりぎりでの挑戦になる。明らかにコンテスタントの中では不利だ。コンクールは、若い才能を発掘することが目的だからな。それでも本選に残ることが出来れば、その後の大きなキャリアになるのは間違いない”
「――この機会を手にするのか、やめるのか。決断する最後のチャンスだよ?」
木藤さんが私の方へと身体を向けて、そうはっきりと言った。
チャイコフスキーコンクールに挑戦するには、次回のコンクールが最後のチャンス――。
突然示された道に、恐れおののく。
”――もし、その気があるのならすぐにでもその準備を始める。でも、今すぐに返事しろと言うのはさすがに酷だ。少し考えてみてくれ”
「は、はい」
そう頷くものの、頭の中は大混乱だ。
”人生には、重要な決断に迫られる時が必ずある。その時、自分の心ときちんと向き合うこと。必ず正直な自分の心の声に耳を傾けなさい。いいね?”
そう言うと、ソコロフ先生は笑みをくれた。
「はい。分かりました」
自分に言い聞かせるように答える。