囚われのシンデレラ【完結】
私の出番は、演奏会中盤の2曲。
1曲目は、誰もが一度は聞いたことがある、パッヘルベルのカノン。
そして、2曲目。これが、この日の緊張の一番の要因だ。
アルゼンチンの作曲家ピアソラの、『リベルタンゴ』
タンゴのリズムで、完全なクラシックとは違う、リズム感とノリが命の曲だ。スピードもあるしアドリブもある。こんな曲を短時間で木藤さんと合わせるのには物凄く不安があった。
でも、さすが木藤さんはプロだ。初めて合わせた時でも、私の演奏にすぐに寄り添い完璧なハーモニーを作り出した。
第一部が始まり、控室のモニターで木藤さんの演奏を聴く。
本当に上質な音――。
惚れ惚れとする。あの音を作り出すために、木藤さんはモスクワでもまれて腕を磨き上げた。まさに、プロの音だ。
第一部が終わり、いよいよ自分の出番がやって来た。
薄暗い舞台袖に待機する。だんだんと思い出して来る。舞台に出る直前のこの舞台袖の空気。追い詰められたような逃げ出したくなるような気持ちになって、足は震える。
「とにかく楽しくやろうね。特に、リベルタンゴは、殻を突き破って弾けないと。ノリノリでね!」
そんな私に気付いてか、木藤さんが二ッと笑った。
「……そうですよね。上品にまとめるような曲じゃないし、ノリノリでやります!」
「そう。その調子! あと、エロさも忘れずにね」
「……え、エっ?」
木藤さんがニヤリと笑う。
「だって、タンゴだもん。官能的さを前面に出す踊りでしょ?」
「……で、出来る限り、がんばります」
「よし! じゃあ行こう」
「はい」
眩しいほどの照明が射す明るい舞台へと、足を踏み出す。