囚われのシンデレラ【完結】
着替えを済ませ、バイオリンケースを背負いバッグとスーツケースを持って、ロビーへと急いだ。
窓ガラスのそばに佇み、窓の外を見つめている姿があった。何故だかその背中に無性に飛び付きたい衝動に駆られて、それを払拭するためにすぐに駆け寄る。
「お待たせしました!」
「……ああ、お疲れ様」
私の声に、ゆっくりとこちらを向く。
「じゃあ、帰ろうか」
「はい」
歩き出すと、西園寺さんが私の衣装の入ったスーツケースを手にした。
「あ……っ、すみません」
「いいよ」
そう言って少し微笑むと、西園寺さんはまた前を向いた。
「さっきは、困っちゃいましたよね。木藤さんが、おかしなこと言うから」
二人で歩きながら無言でいるのもいたたまれなくて、ついそんなことを言ってしまった。
「別に、おかしなことじゃないだろ。前から言ってる。俺は、あずさは凄いって思ってるって」
西園寺さんの会社に行った時。私では釣り合わないのではと言った時に、西園寺さんがそう伝えてくれたのを思い出す。
「今日のあずさは、本当に生き生きしていた。お母さんにも見せてあげたかったな」
「でも、今はまだ大事を取っておいた方がいいですから」
体調面は何の問題もない。でも、まだ夜は少し寒さが残る。風邪などひかれたら困る。
本当はもう一つ理由があった。留学のことだ。
『断る』という気持ちが、100%になってくれないことが自分自身をぐらつかせている。
何を迷うことがあるのか――。
そう、迷うことなど一つもない。留学など出来るはずはない。あとは決断して返事をするのみだ。
「そうだな。また、機会はいつでもあるだろう。あれだけ楽しそうに演奏していたんだからな。こっちにまで、あずさの楽しさが伝わって来たよ」
「確かに凄く楽しかったです。舞台に出る前はめちゃくちゃ緊張していたのに、リベルタンゴを弾いている頃にはそんなのどこかに行っちゃって。最高に気持ち良かった」
舞台での演奏の胸の高鳴りは、やはり舞台上でしか味わえないのだと改めて思い知った。それがまた、私の気持ちをぐらぐらと揺らす。
でも、母の傍を離れるなど出来ない。
そして――。西園寺さんの傍から離れたくない。