囚われのシンデレラ【完結】

 結局私は立ち去れないまま、ラウンジで公香さんと向き合った。

「――突然、本当にごめんなさい。それと、ありがとう」
「い、いえ」

窓際の席で正面に座る公香さんが、丁寧に頭を下げる。
か細い声と細い肩が、その雰囲気を儚げにして。そして、見てすぐ分かる辛そうな姿が、私の胸を締め付ける。

「初めて佳孝さんと会ったのが、高校2年の時でした。今から12年前のことです」

12年――。

その、時の長さに圧倒される。12年前と言えば、私が西園寺さんに出会うよりずっと前だ。

「あずささんが佳孝さんとお付き合いされていたのは、8年くらい前なんですよね?」
「……え、ええ。でも、どうしてそれを――」
「ちょうどその頃、佳孝さんと初めてのお見合いをしたので。佳孝さんが、好きな人がいるから結婚はできないとおっしゃっていました。そして、その人には振られているんだってことも」

公香さんの言葉に思わず目を閉じる。

「それなのに、今はご結婚されて。本当にあずささんが羨ましい。でも、直接あなたにお会いして、こういう方が佳孝さんに選ばれる方なんだって分かりました。心から納得できました。それ……」

目を開けると、その視線が私のミント色のケースに向けられているのに気付く。

「バイオリン、弾かれるんですよね。とても才能のある方だと聞いております」
「い、いえ」

どうしてそんなことを知っているのか。
ここで待っていたということは、私のことを調べたということか。

「あずささんは、可愛らしくて、自信になるものもお持ちで。それに比べて私は、本当に何もない人間なんです。熱中できるほどの趣味も得意なことも何もなく、自分で生きて行く力もない。ただ息をして生きている。それだけなんです」

そう言うと、ふっと小さく息を吐いて、私を真っ直ぐに見た。

「生まれてからずっと、家という鳥籠の中で生きて来ました。学校も幼稚園から大学まである小さな女子校に通い、男の子と接することもまったくなくて。性格から、女の子のお友だちにも親友と呼べる子はいなかった。唯一、私の好きなことと言えば読書くらい。そんな子ども時代を送っていました」

ご両親のもとで、大切に大切に傷一つつけないようにと守られて生きて来た方なんだろう。だからこそご両親は、西園寺さんのような人に公香さんを託したかった。

西園寺さんは本当に誠実な人だ。
確かな幸せを娘に与えられると考えた――。

そんなことを勝手に想像してしまう。

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