囚われのシンデレラ【完結】
「そんな中で、高校2年の時に佳孝さんに出会いました。父の仕事の関係のパーティーに連れて行かれて。人の多い場所が苦手な私は、早々に裏庭に逃げ出した。そこで本を読んでいたら、佳孝さんもいらしたんです」
そこに、私の知らない高校生の西園寺さんがいる。
「佳孝さんとはその前に両親と一緒に挨拶をしていたのに、何も言葉を発することも出来ませんでした。そんな私に、距離を置いたところから『人がたくさんいる所より、ここで読書をしている方がいいな』って笑いかけてくださった。動揺した私は、本を手から落としてしまったんです。佳孝さんは、私を不安にさせないようにと、そっと本を拾って手渡してくださって」
公香さんの目に熱がこもる。弱々しかった表情がみるみる変わっていく。
「自分から男の子に話しかけるなんて考えられなかったのに、立ち去ってしまわれるのを引き留めたくて声を掛けていました。『私には、本を読むくらいしか好きなことがない』って。そうしたら、佳孝さんが言ってくださったんです」
西園寺さんの話をしている公香さんの顔は、恋する人のものだ。それが分かるから見ているのが辛かった。
「それの何が悪いのかと。恥じることはないと。それまで私は、何もない自分が嫌いでした。でも、佳孝さんにそう言ってもらえた時、自分を恥じなくていいんだって思えて嬉しかった」
まるでそこに西園寺さんがいるみたいに、その目はうっとりとしたものになる。
「そして、私に笑いかけてくれた佳孝さんが、子どもの頃に読んだ童話の王子様に見えました。現実にも、王子様のような人がいるんだって。その日から、佳孝さんは私の特別な人になりました」
その話の先を聞くのが苦しくて、思わず俯く。
「だからと言って、私にはどうすることも出来なくてただ心の中で想うだけ。だから、父が縁談相手に佳孝さんを選んでくれたことが本当に嬉しくて。佳孝さんの奥さんになれると思ったら、天にも昇る気持ちでした」
そこで、公香さんの声が暗いものに変わった。
「でも、好きな人がいるからと、佳孝さんにはっきりと断られてしまった。その人には振られてしまったのに想い続けているのだと聞いて、佳孝さんらしいと思ったと同時により苦しくなった。本当に誠実で素敵な方なんだなって」
想いは届かないと分かっていても、西園寺さんを知れば知るほど想いは募る。
そのことを誰より理解してしまう。
「私は、縁談は破談になっても佳孝さんの会社を助けてほしいと父に頼みました。佳孝さんの力になりたかったんです。助ける代わりにと、父が私に条件を出しました。将来的に、佳孝さんと結婚することが出来なかったら、父の選んだ他の人と結婚すると。私は、その条件を受け入れました」
え――?
俯いていた顔を思わず上げた。
「一つは佳孝さんのため。そしてもう一つは、諦めきれない自分のため。今はまだ、別れた恋人を思って忘れられないでいても、待っていればいつか忘れてくださるかもしれない。私が佳孝さんのためになることをしたと知れば、私に振り向いてくださるかもしれない。だから、その熱が冷めるのを待っていようと思ったんです」
その言葉に激しい動揺が襲う。
西園寺さんは。縁談相手が勝手に援助して来たと言っていた。その裏側に、公香さんの想いがあった――。
公香さんの大きな想いと覚悟に愕然とする。
それを、西園寺さんは知っているのだろうか?
もし、知らなかったら――。