囚われのシンデレラ【完結】

西園寺さんが、どうして――?

こちらへと向かって来る姿に目を見開く。

「佳孝、さん……」

私より先に声を上げたのは公香さんだった。

「どうして、二人が? どういうことですか?」

まだ仕事中のはずだ。それに、どうしてここにいると西園寺さんに分かったんだろうか。
この状況に戸惑う私の側に立ち、西園寺さんが強張った表情で公香さんに問い掛けた。

「どうして、直接妻に会いに来たりする? いくらなんでもルール違反だ。妻には何の関係も――」
「佳孝さんに、会えた……」

西園寺さんの言葉などまるで聞こえていないかのように、ただ愛しい人を見るような目で見つめながら立ち上がる。

「もう、お会いすることはできないと思っていました。でも、こうしてお顔を見ることができた」

その目から、涙が零れ落ちる。その涙が私の胸に突き刺さる。

「佳孝さん。佳孝さんは、私が初めて恋した人でした。本当に好きだった」

公香さん――。

「ずっとずっと好きだったのに、これまで一度も自分では言えなくて。ようやく言えて、良かった……」

本当はもっと、言いたいことがあるのではないか。

西園寺さんを繋ぎ止めるために、伝えたいこと、知ってもらいたいことがあるはずだ。

それなのに、他の言葉ではなくただ「好き」だと伝える―――。

それが、本当に西園寺さんを想っている証みたいで。公香さんの姿を見ていられなくなって顔を背けた。

「あずささん」

私を呼びかける声に、西園寺さんの気配が私を隠すように動く。

「あなたと話せて良かったです。ありがとう――」

そう言った瞬間に、ふっと声が消えた。思わず視線を向けると、公香さんの身体がぐらりと揺れる。それを咄嗟に支えたのは、細田さんだった。

「少し体調がお悪いようですから、私がご自宅までお送りいたします。常務は奥様を」
「ああ。申し訳ないが、そうしてください。よろしく頼みます」
「では、参りましょうか」

細田さんに連れられて行くその公香さんの姿に、身体も心も固まる。
どんな形であれ、そこにあったのは公香さんの西園寺さんへの想いだ。目の前に座っていたその人の残像が、鮮明に残って動けない。

「――あずさ。大丈夫か?」

公香さん――。

「……あずさ。あずさっ」

私の肩を揺らし覗き込む顔に、ようやく意識を向けた。

「は、はい。すみません」

その顔を見上げると、私を見る不安と心配が入り混じったような表情があった。

「とりあえず帰ろう」
「はい」

西園寺さんに肩を支えられ歩き出す。

< 250 / 365 >

この作品をシェア

pagetop