囚われのシンデレラ【完結】
西園寺さんが、どうして――?
こちらへと向かって来る姿に目を見開く。
「佳孝、さん……」
私より先に声を上げたのは公香さんだった。
「どうして、二人が? どういうことですか?」
まだ仕事中のはずだ。それに、どうしてここにいると西園寺さんに分かったんだろうか。
この状況に戸惑う私の側に立ち、西園寺さんが強張った表情で公香さんに問い掛けた。
「どうして、直接妻に会いに来たりする? いくらなんでもルール違反だ。妻には何の関係も――」
「佳孝さんに、会えた……」
西園寺さんの言葉などまるで聞こえていないかのように、ただ愛しい人を見るような目で見つめながら立ち上がる。
「もう、お会いすることはできないと思っていました。でも、こうしてお顔を見ることができた」
その目から、涙が零れ落ちる。その涙が私の胸に突き刺さる。
「佳孝さん。佳孝さんは、私が初めて恋した人でした。本当に好きだった」
公香さん――。
「ずっとずっと好きだったのに、これまで一度も自分では言えなくて。ようやく言えて、良かった……」
本当はもっと、言いたいことがあるのではないか。
西園寺さんを繋ぎ止めるために、伝えたいこと、知ってもらいたいことがあるはずだ。
それなのに、他の言葉ではなくただ「好き」だと伝える―――。
それが、本当に西園寺さんを想っている証みたいで。公香さんの姿を見ていられなくなって顔を背けた。
「あずささん」
私を呼びかける声に、西園寺さんの気配が私を隠すように動く。
「あなたと話せて良かったです。ありがとう――」
そう言った瞬間に、ふっと声が消えた。思わず視線を向けると、公香さんの身体がぐらりと揺れる。それを咄嗟に支えたのは、細田さんだった。
「少し体調がお悪いようですから、私がご自宅までお送りいたします。常務は奥様を」
「ああ。申し訳ないが、そうしてください。よろしく頼みます」
「では、参りましょうか」
細田さんに連れられて行くその公香さんの姿に、身体も心も固まる。
どんな形であれ、そこにあったのは公香さんの西園寺さんへの想いだ。目の前に座っていたその人の残像が、鮮明に残って動けない。
「――あずさ。大丈夫か?」
公香さん――。
「……あずさ。あずさっ」
私の肩を揺らし覗き込む顔に、ようやく意識を向けた。
「は、はい。すみません」
その顔を見上げると、私を見る不安と心配が入り混じったような表情があった。
「とりあえず帰ろう」
「はい」
西園寺さんに肩を支えられ歩き出す。