囚われのシンデレラ【完結】
「――どうして、西園寺さんはここに?」
乗せられたタクシーの中で、そのことを聞いた。
「細田さんが君からの連絡がないのを不安に思って、何度か君の携帯に電話をしたらしい。それにまったく出ないから心配になって直接ホテルに来たらしいんだ。そうしたら、ラウンジで二人でいるところを見かけて俺に連絡をくれた」
「そうだったんですか。西園寺さん、仕事中だったのに、すみません……」
「いや。謝るのは俺の方だ。君には迷惑をかけたくなかったのに、結局こうなってしまって」
「いえ。迷惑だなんて、全然そんなことないです」
タクシーの車内でもずっと、公香さんとのやり取りを思い返している。
ざわざわとするいたたまれなさが、自分を責め続ける。
公香さんは、決して私を悪く言うような人ではなかった。偉ぶるような人でもなかった。
私の言葉は、あれで良かったのか。
膝の上の手を、もう片方の手できつく掴む。
本当に、私はこれでいい――?
「――あずさ」
西園寺さんに呼び掛けられて、初めて自宅にたどり着いたのだと気付く。
公香さんのあの目が頭から離れない。
「公香さんに何を言われたのか、全部話してくれ」
背後から聞こえた西園寺さんの言葉に、立ち止まる。
たとえ本当の夫婦ではなくても、西園寺さんを手放したくない。どこにも行ってほしくない。
でも――。
ぎゅっと手を握りしめる。
リビングダイニングから漏れ出る、夕方の空の色が廊下にまで届いて。そのオレンジ色がぐらぐらに揺れる心にまで沁みこんで来る。
「――公香さんは、ただ、西園寺さんのことを好きだって。高校生の頃からずっと、西園寺さんだけを想って来たそうです」
「それは知っている。それでも、以前君に言った通り、愛せない人とは結婚できない。結局、それはその人を傷付けることになる。俺を想ってくれているならなおさらだ」
「でも、本当は、西園寺さんは公香さんのことを愛せるかもしれない……っ」
公香さんの人生をかけた想いを伝えたら、西園寺さんはその考えを改めるかもしれない。
自分のために人生を賭けた人だ。
その人が、今まさに、望まない結婚をしようとしている――。
そんな事実を知ったら、ただでさえ私の元にはないその心が公香さんに向かってしまうかもしれない。
震える心と葛藤を振り切る。
西園寺さんの顔を見てしまったら、きっと言えなくなる。背を向けたままで、握りしめた手のひらを支えに口を開いた。