囚われのシンデレラ【完結】


 翌朝、朝食を食べている時に切り出した。

「今日は、レッスンはない日だな?」
「はい。来週までありませんけど、それが?」

不思議そうな目を俺に向ける。

「とりあえず来週まで、この家から一歩も出ないでほしい。誰が訪ねて来ても、一切応答するな」
「それは、あの、縁談のお相手の方の関係ですか? あれからあの方がどうなったのか、気になっていたんです」

途端にその目が不安で揺れる。

「少し落ち着くまでに時間がかかるようだ。あずさに会う前から、もともとあまり調子は良くなかったようだから。父親が公香さんを溺愛している。こちらに、どんな言いがかりをつけて来るとも分からないからな」

あずさのこともしっかり調べていたからこそ、公香さんはあんなところで待っていたということだ。

「あずさには迷惑をかけてばかりで悪いが、用心するに越したことはない。不便をかけるけど、俺と約束してくれ」

少しでも危険なことに繋がりそうなことは、すべて排除しておきたい。

「分かりました。大丈夫です。一週間くらい、どうってことないです。練習もたくさんできるし」

あずさがそう明るく言う。

「ありがとう」

これ以上時間をかけるべきじゃない。一週間で片を付ける。


 出勤して、すぐに社長室へと向かった。

「朝っぱらからなんだ。一番忙しい時間だぞ」
「すみませんが、二人だけにしてください」

俺がそう言うと、父が渋々秘書を下がらせた。

「――で、話とは?」

応接用のソファに腰掛けた父親の向いに立つ。

「お父さんが、昨日病院に行けと言ったんですよ? 話があることくらい分かりませんか?」
「公香さんのことか。それで、どうだったんだ。命は助かったのか?」

表情一つ変えずにそう言う父に、不審さが募るばかりだ。

「未だ状況は危ないそうです。そこで、お父さんに聞きたいことがある」

じろりと向けられた父の目を、射抜くように見返した。

「俺には不思議なことばかりです。今はもう漆原に何の負い目もない。それなのに、漆原との縁談を強引に進めようとする。一体、何のためですか」
「だから、前にも言っただろう。漆原は力のある企業だ。逆にこちらが貸しを作っておいて損はない。娘があんなにおまえに焦がれている。それに、はっきり言ってあの娘は社会的に自立できない欠陥品だ。漆原さんも心配で仕方ないはずだ。そんな娘をおまえに引き取ってもらえたら、どれだけこちらに感謝するのか。そして、どれだけこちらが優位に立てるのか、容易に想像できるだろ」

淡々と口にする言葉に、唖然とする。

「狂ってるよ……」
「狂っている? 狂っているのはおまえの方だろ!」

突然、父親が立ち上がった。

「いい年をした男が、愛だの恋だのという感情に振り回されおって。おまえのような立場の人間にとって、結婚は感情だけで決められるものではない。対外的にも社内的にも相応しい家の娘を娶る。それもセンチュリーの後継者としての責任の一つだ。地位ある者は、皆それをわきまえている!」
「本当に、それだけですか? お父さんが、漆原の言いなりになるみたいにこの縁談を推し進めようとする理由はなんだ。会長に弱みでも握られているんですか!」
「黙れ」

父親の表情が変わる。

「無駄な詮索はやめて、センチュリーの人間として、何が利益になり何が正しいことなのか。それだけを考えろ」

きっと、何かある。
俺の知らない、何かが――。

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