囚われのシンデレラ【完結】


 父は、あんな人ではなかった。
 いつも人として正しい道を教えてくれた人だった。
 何に対しても、常に誠実であること。こういう家だからこそ、謙虚であれと。厳しくも愛情を持って、俺を見ていてくれた人だ。

やはり、父が変わったのは、7年半前の投資の失敗による損失からか――。

漆原からの好意による援助と出資で、危機を乗り越えたものだと思っていた。

 でも、あの頃の俺は、ただの入社1年目の社員でしかなかった。経営の上層部の動きなど知る立場にない。そして、あの後すぐ俺は海外に渡った。

 これまで、財務資料に問題は指摘されて来ていない。

もしもあの日から、秘密裏に何かが行われていたとしたら――。

そこまで考えて、計り知れない嫌な不安が自分の身を襲う。でも、そこを突き留めなければ、漆原との歪んだ関係を正すことは出来ない。

取締役の立場になった今なら、できることは増えている――。

すぐに、受話器を取った。

「――Hello、this is Yoshitaka Saionji from ――」

電話の先は、センチュリーではないホテルで勤務していた時に、世話になった米国のコンサルティングファームだ。余計な邪魔が入らないためにも、センチュリーの息がかかっていないところがいい。

 もう、全てのしがらみを断ち切りたい。あずさの気持ちを知った今、あずさのいる未来を見たいと思う。そのためにも、真実から逃げてはいけない。

 それが、あずさとの未来を見るために必要なことだと信じていた。

< 268 / 365 >

この作品をシェア

pagetop