囚われのシンデレラ【完結】
「常務、こちらです!」
喫茶店に到着すると、細田さんが潜めた声と小さく上げた手で俺を呼んだ。
細田さんの元に素早く向かう。
店内は出勤前のサラリーマンたちでかなり席が埋まっていた。
「あちらにいらっしゃいます」
身を屈めながら指し示した方向にあった姿に、激しい落胆を覚える。細田さんの見間違いではなかった。
おそらく、この後、自分の人生を変えてしまう現実を覚悟しなくてはいけなくなる――。
何故かそう確信した。
「……では、私はここで失礼致します」
「ありがとうございました。助かりました」
強張る声でそう告げると、細田さんが噛み締めるように俺に言った。
「本日は、いつでもお車の準備をしておきますので」
「ありがとう」
細田さんも、この状況に何かを感じ取ったのだろう。「では」と頭を下げ、細田さんは店を出て行った。
細田さんが確保していた席は、あの二人からはちょうど死角になるのに話し声はある程度聞こえるという、最適な席だった。
今にも飛び出して行きたい自分を必死で抑える。そして、事実を知りたくないと本能的に思ってしまう自分と闘う。
「――だから、何度も言ってるだろ。俺はもう、こんなことは止めたい。これまで世話になったおばさんを利用するようなことまでして……いい加減、自分が嫌になる。もう、いいだろ」
「いまさら、何を善人ぶっているんだ。7年前に、自分のしたことを忘れたとのか? 進藤あずさを自分のものにしたいと、進んで僕に手を貸したのはあなただ」
7年前――?
手に嫌な汗をかく。心臓の音がうるさくてたまらない。
「違う! それだけじゃない。あれは、あずさのためにもなると思ったから――」
「何が違うんだ? 佳孝からあの女を引き離した。騙すことになるのを分かった上で、手を貸したんだ。それは、何が何でもあの女を佳孝から奪いたかったからだろ。今になって良心を取り戻しても、あなたがしたことは消えない」
何だって――?
「7年は長い。もう、何を言っても遅いんだよ。いまさら引き返せない」
遥人は、一体何を――。
俺は、何を信じてこの7年以上を生きて来たのか。
激しい眩暈に今にも倒れそうになりながら、席を立った。