囚われのシンデレラ【完結】

「自分が何をしたか分かっているのか? 何の権利があって人を踏みにじれる? 答えろ!」

座り込んだまま抵抗もしない遥人に、何度も殴りつける。自分が生身の人間を殴りつけている感覚が薄らいで、この拳の感触さえも消えて行く。

「俺は! 遥人には遥人の思いがあって反対しているんだと思ってた。おまえに理解してもらえなかったことはショックだった。でも、あの時、遥人のことを疑ったりはしなかった。それがどうしてだか分るか? おまえと過ごして来た時間があったからだ……っ」

小さい時から傍にいて。いろんな話をして、同じ時間を共有して来た、唯一無二の親友だった。信頼し心許した人間だった。
虚しさと自分の愚かさに、どうしようもないほどに深い闇に落ちて行く。

「……おまえに僕を殴る資格があるのか?」

殴られたままでいた遥人が、血まみれになっていた口元を拭いながら俺を見上げて来た。

「今頃になって僕に真相を聞いて来たということは、あの子から何も聞いていないんだろう? 確かに僕はあの子に言った。もう佳孝は君のことは信じないだろうって。でも、おまえだって。ちゃんとあの子の話を聞こうとしなかったからじゃないのか? 結局あの子を信じきれなかったのはおまえだろ!」

一緒に暮らし始めて、あずさは、俺に必死になって言おうとしたことが一度だけあった。

「人はその立場に応じているべき場所がある。それを無視すれば、周りを不幸にするんだよ」

あの時、俺は――耳を傾けることさえしなかった。

「7年前、おまえが選ぶべき相手を選ばなかったから、公香さんはあんなにも病み自殺未遂まで起こした。
おまえが進藤あずさと付き合ったりしなければ、おまえと父親を失う喪失感を同時に味わうこともなかった。あの平凡な幼馴染と、今頃幸せな家庭でも築いていたかもしれない。
再会して結婚なんて馬鹿げたことをしなければ、あの子に公香さんを自殺に追いやったという深い傷を負わせることもなかった!」
「……黙れ!」

畳みかける言葉に耐えられなくなって、声を張り上げていた。

「誰より佳孝自身が、一番大切な女を不幸にしているんだ。過去も現在も、そして未来も」

遥人の声が心を切り裂く。

「佳孝、もう目を覚ますんだ――」
「黙れと言ったのが分からないのか!」

もう立っていることもままならない。

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