囚われのシンデレラ【完結】
視界の端で、遥人がふらふらと立ち上がるのが分かる。
「おまえのことは一生許さない。あずさを苦しめた報いを受けてもらう」
「それくらい、いくらでも受けるさ。そんな覚悟がなければこんなことはしないからな。でも、これだけは覚えておけ」
息の上がった途切れ途切れになって行く声で、遥人が言った。
「このままあの子といる限り、これだけでは終わらない。終われないようになっているんだよ」
「……何だと?」
「僕だって知らないさ。でも、漆原との関係には、僕なんかでは知りようもないもっともっと深い闇がある。だから、おまえの父親は必死なんだよ」
原形をとどめていない腫れあがった顔が、俺を苦しげに見つめた。
「人はいるべき場所にいるようになっている。そうでないと、またあの子に不幸を与えることになる」
埃を払うようにスーツに手をやると、遥人が俺に背を向けた。
もう限界だった俺は、その場に崩れ落ちた。
「……なあ、遥人。どうしてここまでした? 何がおまえをそうさせた」
薄汚れたコンクリートの壁にもたれるように座り、遥人に声を掛けた。
「おまえみたいな人間には一生理解できないことだ」
虚しさと嘲りが混じったような微笑に、身体中が苦しくなる。
「……消えろ。今すぐここから消えろ!」
もう、自分さえも信じられない。
信じられるはずもない。
俺があずさを傷付けた。
最後の最後、信じ切ることが出来なかった。
あずさを、苦しめ続けて来た――。
過去も、そして現在も。
あずさを助けたいだなんて思い上がって、無理矢理俺の傍に置いて。
結局、俺は――。
自分を纏うこの身体も、自分の中にある心も薄汚く思えて。こうして存在していることが耐えられなくなる。
「クソ――っ」
思い切り拳を壁に当てても壊れてなんてくれない。何度も繰り返し打ち付けても、何も変わりやしない。
何もない。
親にとっても道具でしかない。
一番長く時間を共にした人間が俺を裏切り、そして。
俺の周りの人間のせいで。
誰より俺のせいで、あずさを傷付け苦しめた――。
この身体に何の価値があるだろうか。
吐き気と共に虚しさが次から次へと込み上げる。
「あずさ……ごめん、な。ごめん……っ」
赤く染まる手で顔を覆う。
「ごめん――」