囚われのシンデレラ【完結】
鉛のように重苦しい身体を、無理やり立たせる。
――漆原との関係には、僕なんかでは知りようもないもっともっと深い闇がある。
やはり、絶対に何かある。
調査を急いで少しでも早く真実に辿りつかなければ。
そして、すぐにでもあずさに謝らなければならない。
こんな自分が、あずさの側にいる資格があるのか。そんな思いが隙間という隙間から漏れ出て来そうになるけれど。
とにかく、そんなことより、あずさを苦しめて来たことを謝ることが先だと自分に言い聞かせる。
社に一度出向き、急用のため休暇を取ると告げてから帰宅した。
「西園寺さん……こんなに早い時間に、どうしたの――」
玄関ドアを開けると、あずさが走って来てた。帰って来たことに驚いた次の瞬間に、俺の姿を見てその目の色を変えた。
「その手、どうしたんですか? 怪我したの? 血まみれじゃ――」
「あずさ……っ」
目の前に立つあずさの顔を見たらもう、堪え切れなくなった。
「本当に、申し訳なかった。俺は、本当にあずさに酷いことをした。7年前も、今も」
「突然、どうしたの?」
床に膝をつき、頭を下げる。
「ちょっと待って。頭を上げて。西園寺さん!」
慌てたように俺の肩に優しく触れる。
そんな風に触れてもらえる資格なんてない。
「俺はずっと、あずさのことを誤解したままでいた。あずさは俺のことだけを想ってくれていたのに、他人の策略に嵌りそれを信じてしまった。ずっと、俺は――」
「西園寺さん……誰かに、何かを聞いたんですか?」
俺の肩を掴む手が緩む。
「全部、遥人に聞いた。あいつが君にしたことを全部」
「でも、斎藤さんは、私が西園寺さんを裏切ったって思ってるんですよね? それで斎藤さんは私のことを怒ってる」
「違うんだよ」
遥人はそうやってあずさを責めていたのか。すべて、裏で自分が仕組んでおきながら、あずさを悪者に仕立て上げた。
俺からあずさを引き離すために――。
心臓の真ん中にナイフでも突きさされたように、激しい痛みに襲われる。そして、どうしようもないほどの後悔が俺を押し潰す。
「違うって……でも、私、西園寺さんと再会してから、斎藤さんに会いに行ったんです。その時、聞きました。私のことを調査して、私が柊ちゃんと付き合っているって……」
あずさは一人、やり場のない悲しみを抱えて俺と暮らしていたいんだ。
信じてもらえず、話を聞いてももらえない虚しさと――。
「その調査には、あずさの本当の気持ちなんて表されていなかったんだよな。写真も、君が抱き合うことになったのも、すべて遥人の策略だ」
「それ、どういう意味ですか……?」
ゆっくりと顔を上げ、真っ直ぐにあずさを見た。
「俺とあずさを別れさせるために遥人が仕組んだ。あずさとあの幼馴染が本当に付き合っているように見せるために、遥人が加藤柊に近付き手を組んだ。彼があずさを好きだという気持ちを利用して」
「え……?」
あずさの目が動揺で激しく揺れる。その衝撃を思うと辛い。
「柊ちゃんも? 全部分かっていて、私を騙していたの……?」
「ごめん。遥人が彼まで巻き込んだんだ」
俺が遥人と長い付き合いだったように、あずさにとっても加藤柊は心を許していた幼馴染だったはずだ。
また一つ、あずさを傷付けることになった。