囚われのシンデレラ【完結】
「あずさ、こっちに来て」
ソファに腰掛けると、私を呼んだ。それに応えるように西園寺さんの隣に座る。
「この前、久しぶりに舞台に立っただろ? その時、どう感じた?」
私に身体を向け、膝の上の私の手のひらを取った。
「どうしてそんなことを聞くの?」
「あずさのバイオリンのこと、ちゃんと話をしようと前から思っていた」
真っ直ぐに私を見つめるその視線が、今はとても怖い。
「俺には、舞台に立つあずさはいつものあずさとは別の人に見える。バイオリンを弾いていない時の可愛いあずさも、バイオリンを弾いている時の別人のようになるあずさも、どちらもあずさだ。あずさ自身が一番よく分かっているはずだ。舞台に立つことで現れる演奏家としての自分を」
「確かに、舞台で演奏する喜びを知ってる。でも、だから何? どうして今、そんなことを言うんですか」
この話の行く先が勝手に想像されて、その視線から逃れる。
「ちゃんと俺を見ろ。一緒にコンチェルトを聴きに行った時、涙を流したのは何故だ? あんなにブランクがあったのに、ここまで腕を戻せたのはどうしてだ? それは全部、あずさに情熱と才能があるから。選ばれた人間だからだよ」
「それで、私に、バイオリンを選べとでも言うつもりですか……?」
頭を激しく振る。
「私は、あなたに聴かせたくて。笑ってほしくて必死に頑張ったの。西園寺さんがそばにいないなら何の意味もない」
「あずさも俺のことを想ってくれているんだと分かった時、この先、あずさのそばにいて俺があずさの夢を叶える手助けをしたいと思った。でも、今の俺といたのではあずさは音楽どころではなくなる。あずさの中の半分を殺してしまうことになる。そんなことを俺はできない」
そう言うと、西園寺さんが私に一つの通帳を差し出して来た。
「……何ですか、これ」
それは、結婚したばかりの時に、西園寺さんに作ってくれと頼まれた通帳だった。この先の結婚生活で必要になる経費を振り込む時に使うからと、西園寺さんに預けていた。
おそるおそる受け取り、開く。そこに記帳されていた金額に目を見開く。