囚われのシンデレラ【完結】

「俺から一方的に切り出した離婚だ。あずさが受け取る権利のある慰謝料だと思ってくれ。それだけあれば、当面、何も心配せずにこの先の生活を送れる」

激しく揺れる心で西園寺さんを見つめる。そこにあったのは、私とは正反対の揺るぎない視線だった。

「留学だって出来る。留学して、国際コンクールを目指せる」
「留学って……何を言っているんですか? 西園寺さんといることでバイオリンを弾く私が死んでしまうと言うなら、別れても同じことです。あなたといる時の幸せな私は死んじゃいます!」

困らせたくないと思っていたのに。
西園寺さんだって辛いのだと分かっているのに、結局、私はこの人を困らせている。

「西園寺さんは、私と別れても平気なの? 本当は、私がいなくても西園寺さんは何ともなくて、だから――」

この口が西園寺さんを傷付ける言葉ばかりを吐いてしまう。

「こんなもの、平気で私に渡せるんでしょう?」

それを床に投げつけた。

「……どうして? こんなに好きだと言っているのに、どうして分かってくれないんですか? 何があっても私を手放したくないと言ってよ。どれだけ苦労かけたとしてもそばにいてくれって、どうして言ってくれないの? 本当は私をそんなに愛していないから? 好きだって言ってくれたのは、嘘だった?」
「違う――」

こんなことを言いたいわけじゃない。
でも、すぐそこにある別れを思うと、どうしようもない。別れの恐怖が、私を醜い女に変えてしまう。自分を制御出来なくなる。

7年半前は、苦しくても西園寺さんのためだと去ることができたのに。
どうして同じことが出来ないのだろう。

二度目の私はこんなにも我儘だ。あの時より大人になったはずなのに、大人げないことをして感情的になっている。
大人になったから、狡さを知ってしまったのかもしれない。綺麗な心のままでいられないほどに、愛の生々しさを知ってしまった。

二度も同じ人を愛してしまえば、綺麗なだけのものではいられなくなる。

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