囚われのシンデレラ【完結】
出勤する西園寺さんを見送る。それはいつもと変わらない光景だ。
「今日は、ソコロフのレッスンの日だったな」
「はい」
「ここに来てもらうように、俺からソコロフに頼んでおく」
「でも――」
相手は世界的バイオリニストだ。気が引けてしまう。
「今はまだ、あずさを外に出したくない。この前も、送り迎えをしても公香さんがあずさに接触したりした。注意してし過ぎることはない」
私と西園寺さんがこの状態でいる以上、西園寺さんの心配は消えない。私は、何も分かっていないのかもしれない。
「……大丈夫。ソコロフの負担にならないように、こちらですべて手配をするよ」
私の表情を察したかのように、西園寺さんが私の肩をぽんと叩いた。
「わかりました」
朝になっても、西園寺さんは離婚の話には触れて来なかった。私があんなにも取り乱してしまった姿を見たら、何も言えなくなってしまったのかもしれない。
このままではいられないのは分かっている。
レッスンが予定されていた時間に、ソコロフ先生と木藤さんがやって来た。
"来ていただいてすみません"
"いや、大丈夫だよ。佳孝がいい車を手配してくれた"
そう言って先生が笑う。
リビングへと二人を案内して、ソファに腰掛けてもらった。
"――早速だけど。まず、あずさと話をしておきたい"
その言葉に身構える。
"自分の心の声に耳を傾けた?"
「え?」
「留学のこと。モスクワに行くのかどうかのことよ」
木藤さんが助け舟を出す。
以前、ソコロフ先生から話してもらった。
『君にその気があれば、モスクワの音楽院の教授を紹介できる。そして、チャイコフスキーコンクールを目指せる』
西園寺さんも私に同じことを言った。
"あの……。教えてほしいことがあるんです"
ソコロフ先生に、まだ勉強途中のロシア語で聞いた。