囚われのシンデレラ【完結】
部屋の薄暗さで、時間の経過に気付く。
夕飯の準備をしないと――。
立ち上がりキッチンへと向かった。
ダイニングに置いたままだったバッグからスマホを取ると、メッセージを受信していた。
【これから帰る】
西園寺さんからのものだ。
こんなに早く?
そのメッセージを受信していたのは10分ほど前だ。会社からここまでの所用時間を考えれば、そろそろ帰って来る頃。
どうしてだろう。何かが心を逸らせ、居ても立ってもいられなくなって、私は部屋を飛び出していた。
部屋で待っていれば、帰って来てくれる。それが分かっているのに駆け出したのはどうしてか。自分でも掴みきれない急く感情が突き動かして、勝手に身体が動いていた。
西園寺さんに言われていた通り外へは出ないようにして、エントランス内で車が来るのを待つ。
あ、来た――。
黒塗りの車が、車寄せへと入って来る。
ガラスの自動ドアへと近づくと、車が止まり細田さんが出て来た。後部座席のドアが開き、西園寺さんの姿が現れる。ここで待ちながら様子をうかがう。
細田さんが頭を下げて、運転席へと戻ろうとした時だった。こちらへと向かおうと歩き出した西園寺さんの身体がぐらりと揺れる。
西園寺さん――!
「常務、大丈夫ですか……っ!」
細田さんの声が響いた。
「ああ……すみません。少し立ちくらみがしただけですから、大丈夫です」
マンションのタイル張りの壁に手をついて、再び歩き出そうとする西園寺さんに細田さんが声を上げた。
「でも、心配ですから、奥様をお呼びしましょう――」
「それだけはやめてください!」
西園寺さんの鋭い声が、飛び出して行こうとした私の足を止める。
「お願いします。これ以上、あずさに余計な気苦労は与えたくない。それに、本当に少しふらついただけですから」
西園寺さん――。
動けないまま、足が竦む。
「無理をし過ぎです。いくら若いからと、自分の身体を粗末にしてはいけませんよ。もうずっと、常務はずっと張り詰めた状態です。時には、誰かにもたれかかることも必要です」
「俺は、大丈夫です――」
「どうですか、私に話してみませんか。苦しいお気持ちを吐き出すだけでも、楽になるということもある」
必死に訴えかける細田さんが、背の高い西園寺さんの肩を支えて。
「俺は……」
苦しみにまみれた声が私にも届く。
その言葉の続きを、西園寺さんの本当の心を知りたい。
そう思えば、出て行けなくなった。