囚われのシンデレラ【完結】
「――ただいま」
「おかえりなさい」
キッチンで夕食の準備をしていると、しばらくして西園寺さんの声がした。
「遅くなってごめん」
「ううん。私も、夕食作り始めるのが遅くなっちゃって。急いで準備しているので、少し待っていてもらえますか?」
西園寺さんの方には振り返らず、手を動かし続ける。
「分かった。着替えて来るよ」
「すみません」
さっきとは違う、いつも通りの西園寺さんの声。
自分の顔を見られたくなくて振り向けない。鍋の中をひたすらにぐるぐるとかき回す。
「お待たせして、すみませんでした」
ダイニングテーブルに並べた料理を前に席に着く。
「いいよ。レッスン、長引いたのか?」
「い、いえ……あ、はい。そうなんです」
向かいに座る西園寺さんの顔をうまく見られない。でも、思い切って顔を上げた。
「今日は、特に熱が入って。また、たくさんの課題を出されました。期待されている証拠でしょうか……なんて」
私の冗談めいた言葉に、西園寺さんが優しく微笑む。その表情に、細田さんの隣で見せていた姿が浮かんで胸の奥が痛む。
「そうだよ。相手は世界中を飛び回るプロだ。見込みのない人間に時間を割いたりしないさ」
「頑張ります」
西園寺さんが頷く。
「――西園寺さん、一つお願いがあるんです」
「何だ?」
西園寺さんが箸を止め私を見た。
「母のところに行きたいんです」
「そうだな。ずっと、どこにも行かせないでいた。お母さんの顔を見て来るといい。俺が送り迎えをするよ」
「でも、仕事があるのでは?」
「大丈夫。少し抜けるくらいなら、大丈夫だから」
「ありがとうございます。すみませんが、よろしくお願いします」
西園寺さんに、頭を下げた。