囚われのシンデレラ【完結】


「――ただいま」
「おかえりなさい」

キッチンで夕食の準備をしていると、しばらくして西園寺さんの声がした。

「遅くなってごめん」
「ううん。私も、夕食作り始めるのが遅くなっちゃって。急いで準備しているので、少し待っていてもらえますか?」

西園寺さんの方には振り返らず、手を動かし続ける。

「分かった。着替えて来るよ」
「すみません」

さっきとは違う、いつも通りの西園寺さんの声。

自分の顔を見られたくなくて振り向けない。鍋の中をひたすらにぐるぐるとかき回す。


「お待たせして、すみませんでした」

ダイニングテーブルに並べた料理を前に席に着く。

「いいよ。レッスン、長引いたのか?」
「い、いえ……あ、はい。そうなんです」

向かいに座る西園寺さんの顔をうまく見られない。でも、思い切って顔を上げた。

「今日は、特に熱が入って。また、たくさんの課題を出されました。期待されている証拠でしょうか……なんて」

私の冗談めいた言葉に、西園寺さんが優しく微笑む。その表情に、細田さんの隣で見せていた姿が浮かんで胸の奥が痛む。

「そうだよ。相手は世界中を飛び回るプロだ。見込みのない人間に時間を割いたりしないさ」
「頑張ります」

西園寺さんが頷く。

「――西園寺さん、一つお願いがあるんです」
「何だ?」

西園寺さんが箸を止め私を見た。

「母のところに行きたいんです」
「そうだな。ずっと、どこにも行かせないでいた。お母さんの顔を見て来るといい。俺が送り迎えをするよ」
「でも、仕事があるのでは?」
「大丈夫。少し抜けるくらいなら、大丈夫だから」
「ありがとうございます。すみませんが、よろしくお願いします」

西園寺さんに、頭を下げた。
< 313 / 365 >

この作品をシェア

pagetop