囚われのシンデレラ【完結】
翌日、母を訪ねた。
「体調はどう?」
「どうって、毎日電話で話してるじゃないの」
母が不思議そうに私を見る。
「まあ、そうなんだけど」
「それより、西園寺さんは元気? 西園寺さんのおかげで、毎日、こんないいところで安心して過ごせてる。本当に感謝しているのよ。今度、また改めてお礼したいわ。少しだけでもお金を返せたらと思うんだけどね……」
顔色もいい。母の回復が順調に進んでいることに、本当にホッとする。
「返そうなんて思わなくていいんじゃないかな。彼はそんなこと求めてないと思う。それより、少しでも早く元気になってもらいたいんだよ。その一心でしたこと」
もう、西園寺さんの考えていることは分かるから。それを何より理解したいと思う。
「お母さん。今日は話があって来たの」
「改まって、何よ」
テーブルを挟んで向き合った。
「……今、ロシアの有名な先生にバイオリンを定期的にレッスンしてもらってるでしょ。
その先生が、私にモスクワの音楽院に留学しないかって言ってくれてるの。そこでみっちり勉強したら、チャイコフスキーを目指せるって」
「モスクワって、チャイコフスキーって、それ、昔、あずさが憧れて目指していたものじゃないの……。本当なの?」
興奮したように身を乗り出して来た。
「自分でも信じられないけど、先生がそう言ってくれてる。もう何年も前に諦めたことだった。でも、今、真剣に向き合って、自分がどれだけバイオリンを捨てられない人間か分かった。このチャンスを無駄にしたくない」
息を詰めるように、膝の上でぎゅっと手を握り合わせる。
「お母さん、私、留学してもいいかな。大きな手術をしたばかりのお母さんを残して行くことになるのは十分理解してる。それでも、行きたいと思ってる。これが最後のチャンスだから」
お母さんを前に頭を下げた。
親不孝になるかもしれない。寂しい思いをさせるかもしれない――。
「……西園寺さんは何と言っているの? あなたの旦那様でしょ? あずさが一番に考えるのは西園寺さんのことよ」
その声に顔を上げた。
「こんなチャンスに巡り逢えたのも全部彼のおかげなの。彼は、私の夢を私以上に大切に思ってくれていた。私が夢を叶えることを一番に願ってる。だから私は、あの人の思いにも応えたい」
母がにこりと笑う。