囚われのシンデレラ【完結】


 朝から綺麗な青空が広がって、春の真っ只中にいるのだと実感する。私が生まれた季節。そして、西園寺さんと出会った季節でもある。

「――こういうの、初めてじゃないですか?」

東京駅から長野新幹線に乗り込んで、並んで座った。

「最初は車にしようかとも思ったけど、この方が旅行の感じが出ると思ったんだ。あずさの言う通り、これまで二人で車以外の乗り物に乗ったことがないからな」

隣にいる西園寺さんが、私に優しく微笑みかける。

私が、二人で旅行したいと言ってからすぐに、西園寺さんがすべてを手配してくれた。

「凄く嬉しいです」

"初めて"には切なさも滲むけれど、今はこの先のことは考えない。ただ、二人で過ごす二日間のことだけを考える。

「西園寺さんが運転していないから、たくさん話もできるし、同じ景色も見られる。それに――」

ちょうど車内販売のワゴンが近付いて来た。

「缶ビールも飲めちゃいますよ?」
「こんな時間から飲むつもりか?」

いつもより少しだけラフな髪型と、Vネックの薄手のニットにジャケットというカジュアルな服装が、私のためだけにいてくれる西園寺さんだと思えて。その姿にも胸がじんとする。

「休日だからこその贅沢ですよ。一緒に飲みませんか?」

うかがうようにその目を見つめると、驚いていた表情がすぐにくしゃりと緩んだ。

「そうだな。大人の楽しみだ」

ワゴンを止めて缶ビールを買ってくれた。

「……とは言ってもまだ旅の始まりだから、1缶だけだぞ?」
「ありがとうございます! 美味しくいただきます」

差し出された缶を笑顔で受け取る。そして、軽く缶を合わせて、二人で同時に一口飲んだ。

「あーっ、やっぱりビールは一口目が一番美味しいですよね」

冷えた苦味が、喉に気持ちいい。

「ホント、その顔……」

「え?」

「……いや、何でもない」

「何ですか? 失礼ですよ。人の顔見て笑うなんて」

「笑ってはいない。微笑ましく見ているだけだ」

ただの一口なのに、私を元気にしてくれる。気を抜くと忍び寄る感情を、どこかへと追いやってくれるみたいに。

「それは、絶対に呆れてる顔です」

この瞬間、隣にいて私を見てくれる。

この旅は、最後の瞬間まで、絶対に楽しい思い出にする――。

与えられた時間を大切にしたい。
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