囚われのシンデレラ【完結】
「今日、明日と、あずさのしたいことをしよう。何がしたい?」
西園寺さんが私に問いかけた。
「軽井沢、行ったことないんです。少し調べたんですけど、食べ歩きとか楽しそうだなって。それから、自然の中を散策もしたいし。あと、美術館にも行ってみたい……って、そんなにたくさんは無理ですね」
あれもこれもと、つい口走ってしまった。急遽決まった旅だから、きちんと計画を立てる余裕などなかった。
「やってみなければ分からない。あずさのしたいことは全部してみよう」
尻すぼみになった私に、西園寺さんがそう言ってくれた。
「……は、はい!」
嬉しい。その気持ちだけで胸を一杯にする。
1時間と少しで、軽井沢駅に到着した。駅に降り立つと、空気の違いを肌で感じた。やはり、東京よりひんやりとする。
少しでも女らしく見せたくて着てきたコットンのワンピースとトレンチコートでは、少し寒いかもしれない。
「……どうした?」
「う、ううん。早速、行きましょうか」
運良く今日は晴れの日だ。これから気温も上がるだろう。
「まずは、通りまで行ってみるか? バスが出てる」
「はい」
駅構内で、素早く観光マップを手に入れ、バスを待った。
新幹線に乗って、バスを待って。そんなことですら嬉しい。
バスに乗ると、立ちながら二人で観光マップを覗き込んだ。これから、旧軽井沢銀座通りへと向かう。
「軽井沢、久しぶりだから結構忘れてる」
そう言って隣でマップを見つめる西園寺さんの横顔が、とても近いことに気付く。真剣に見ている姿に、ドキドキとするのについじっと見てしまう。
肩触れ合う距離で、すぐ間近にある輪郭から目を離せない。
「……ん?」
「あ、い、いえ」
突然こちらを向くから、のけぞるように顔を離した。
「た、たくさん、お店があるなあって思って。今から楽しみです」
「食べ過ぎるなよ?」
普通にしていると凛々しい顔立ちが、少し微笑んでくれるだけで途端に優しくなる。
「どうかな。美味しそうなものがたくさんあったら選べないです。お腹いっぱいでも無理矢理に詰め込んでしまうかも」
「……まったく、困った人だ――」
「わぁっ」
バスがカーブに差し掛かったところで、身体がぐらついた。
「大丈夫か?」
バランスを崩した身体を咄嗟に抱き留めた。西園寺さんの胸が目の前に迫る。
「は、はい。すみません……っ」
数ヶ月一緒に暮らしてきて、抱き合ったことだってある人なのに、どうしてこんなにも些細なことで胸が跳ねるのだろう。