囚われのシンデレラ【完結】
でも、気温が急速に下がって来るのが分かる。これ以上、西園寺さんを薄着のままではいさせられない。
優しく抱き寄せる腕を名残惜しく感じながら、その胸から頭を離した。
「……もう、部屋に戻りましょうか。空も暗くなって来ました」
「そうだな。そろそろ、あずさもお腹がすく頃だろう」
「どうせ、私なんて、食べることばかり考えてるんだろうって思ってるんでしょ!」
そう言って笑う。
まだ、笑える。大丈夫――。
部屋に着くと、すぐに食事を運んでもらった。
庭に面した大きな窓のそばに置かれたテーブルに、いろとりどりのメニューとシャンパンが並ぶ。食事の支度を終えると、係の人はすぐに出て行った。
「ここの宿は、こちらから頼まない限り、必要最低限のことをするだけだ。その分、極力宿泊客のプライベートな時間を守ってくれる。サービスの方法も、客のニーズに合わせる。それも、立派なもてなしの一つだな」
確かに、出迎えの時も、必要なことだけを伝えるとすぐに立ち去っていた。それでいて、何か不足を感じることもない。
「多様化の時代だからな……って、こんな話、意味ないな。ごめん。つい、職業柄分析してしまう」
ふっと、西園寺さんが苦笑した。
「いえ! なるほどなって思いました。確かに私も、その時々でしてもらいたいことは変わるなって思います」
「客それぞれのニーズを瞬時に察知すること。結局、最後は人なんだよな。優秀なホテルマンを育てるのが一番大切で一番難しい。どれだけ時代が変わっても、人を大切にできるホテルであってほしい……なんてな」
その表情を見て、まだ私が学生だった頃、西園寺さんが言っていたことを思い出す。
――俺、なんだかんだ言って、うちのホテルのこと、結構気に入ってるみたいだ。
自分のホテルを少しでも良くしようと懸命に頑張って来たはずだ。
それなのに、これから西園寺さんがしようとしていることを思うと胸が痛む。
「……さあ、温かいうちに食べようか」
「はい」
泡立つ液体が揺れるグラスを二人で合わせた。
窓の外の庭は、もう既に暗闇の中だ。暖色のランプが点在して、幻想的でもある。リビングからは、暖炉の、薪が燃える音が聞こえて来る。
美味しい料理を、お互いにどこがどう美味しいのかと言い合って。少しの沈黙が生まれれば、それを埋めるようにシャンパンを口にした。
「とっても飲みやすいです」
「甘さと程よい苦味もちゃんとあるから、飽きない。もう空だな。もう一本持って来よう」
西園寺さんが空になったボトルを手にして、立ち上がった。
この日はどこにも帰らなくていいからと、シャンパンをためらうことなく飲み干した。
西園寺さんは、今度は私を止めなかった。
夜の闇が濃くなっていけば行くほどに、心を麻痺させるものが必要になって行く。
それはきっと、言葉にしなくてもお互い同じこと。いつになく饒舌な西園寺さんが、その証拠だ。
他愛ないお喋りと、アルコール。私たちは、それに縋った。